from Mayhem(Reboot):04


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 セラフより警告>>アリーナ内でのマスター同士の戦いは禁止されています。

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焦燥感を煽る警告音(アラート)が消え、アリーナ全体の赤い明滅が収まる。アリーナはすぐさま元の景色を取り戻した。一時的に凍結状態だったエネミー(敵性プログラム)も平常運転を始める。


「ご苦労さま、ラン………いや、今は“アーチャー”だったな」


須江部真文は、戦闘を終えた自身の相棒(サーヴァント)に労いの声を掛ける。彼の穏やかな笑みに、サーヴァントも笑顔で返したのだった。青磁のような肌、色みのない灰色の瞳、背を揺蕩う淡い草色の髪――飄々と、しかし凛とした表情で自身の相棒(マスター)の方へと歩んで(かえって)いく。

女性とも男性ともつかぬ風貌なのだが…ここでは便宜上“彼”と呼ぶ。彼はとても愛嬌のある様子で、真文とハイタッチを交わす。仲の良い主従であることは、どうやら間違いないようだ。

“サーヴァントは触媒がなければ自身と似たものが召喚される”

彼らもその例に漏れず、まず雰囲気からして何処か似通っている。須江部真文については、その容姿(アバター)は様々に切り替えているので共通点にあげるべくもないのだが
少し人間離れした…或いは人形のように整った(できすぎた)容姿の二人が宿す魂が
また、どことなく人間的ではないことも、二人を似たもの同士に思わせる理由の一つだ。


「ペナルティがないといいんだけど…」
「大丈夫だよ、今のは疑いようのない正当防衛だから」


”アーチャー”は、自信を持って答える。サーヴァントはSERAPHの基幹(メインシステム)と一部リンクしている所以か。SERAPHから何らかの通達があればすぐにわかるのだろう。

今や霊子の残滓すら残っていないが、彼らは一回戦の対戦相手をたった今倒したところだった。相手はアサシンかアーチャーか、或いはキャスターか。どちらにしろ直接戦闘に向かないサーヴァントだったのだろう。真文と“彼”はアリーナ探索中に奇襲を受け、しかしこれを退けた。

言峰綺礼もブリーフィングで説明している通り、アリーナでのマスター同士の戦闘は禁じられている。実際、今回のように戦闘になった場合は戦闘開始直後から、SERAPHが強制終了のためのシークエンスを始める。一定時間経過すると両者は戦闘行動を取れなくなり、また互いに干渉できなくなるのだ。

須江部真文とそのサーヴァントは、この僅かな時間に相手を倒したということだった。


「―――きっと僕たちが一番乗りだね。二回戦に進むのは」


しかも“彼”は戦闘の疲れを一切見せていない。それこそ、アリーナ中を跋扈するエネミーの一体でも蹴散らしたかのような軽快さで真文に帰還を促すように先導する。


「行こう、シモン。“彼ら”の解析も済んだしアリーナも踏破した。もうここに用は無いよ。」


“アーチャー”の言葉に真文も頷き、二人は徒歩で出口へと向かうようだった。数歩先を進んでいた“アーチャー”は、真文の到来を待ってから歩調を合わせる。


「ねえ、シモン。僕たちって本当によく似ているよね」
「そうかな?僕が君のような偉大な英雄と似ているなんて烏滸がましいよ」
「んー…ホラ、一人称も“僕”で同じだし、なんとなく口調も似てない?」
「―――ああ」


そうなのだ。“彼”自身も冗談めかして言ったものの、須江部シモンとそのサーヴァントが会話する様子は――――変な話だが、まるで自問自答でもしているかのような、奇妙な感覚がある。その穏やかさ…謂わば波長が酷く似すぎている。少なくともこうして他愛もない会話をしている限りは。


「僕たちは、その存在理由もが似通っているもの。」
「確かにそういった類似性は認められるね」
「“何よりも大事な友人”がいることもそう。君の“彼女”と同じように、僕にも大切な友がいる」


両手を胸に宛てながらそう言い、“アーチャー”は少女のような笑みを真文に向けた。“彼”の言うその“友人”のことを、真文は既に知っているのだろう。真文は、頷く代わりに“アーチャー”に微笑み返した。そして彼は、彼にしては恐らく珍しく『感慨深そうに』目を細めて呟いた。


「そんな君だからこそ―――…」
「ん?」
「…数いる英霊の中で君だけが、僕の言語(さけび)を理解してくれたんだね」


今度は“彼”がシモンに微笑み返す番だった。
屈託の無い爛漫の笑顔には、男女に限らず人の本能に語りかける魅力があったが その笑顔を見た真文の心の中に湛えられているのは、純粋な感謝と友誼のみ。これ以上ないと思われるほど、息のあったペアだろう。

マキナと同じく日本より参戦したマスター、須江部真文。

魔術師(ウィザード)級のハッカーの一人とはいえ―――彼の知名度など局地的なもので、ムーンセルに参戦している魔術師の中では、その地上での実績も含めて中の下くらいの存在である。西欧財閥系企業の機密情報を徒にネット上に公開したり、反政府的な過激な発言で、一見反動勢力側の立ち位置にいるように思えるが…あくまで愉快犯の域を出ず、その思想も幼いものと看做されている。

要するに、ムーンセルの参加者の中でも最底辺に位置する――小物なのだ。

だが、今の彼からはそんな様子が一切窺えない。彼と彼のサーヴァントの悠々とした姿を見ているとまるで最初から、優勝候補の一組だったかのような、そんな気にさせられる。

そんな彼に、惜しみない協力を申し出られたマキナの前途多難を―――マキナ本人はまだ当然、知る由もないのだが。


「ねえ、帰ったら彼女の事、もっと聞かせてくれないかな?」
「勿論いいよ。僕は――…ずっと彼女のことを見てきたから、彼女の事ならなんでも答えてあげられる」


須江部真文とそのサーヴァントは、アリーナの出口(ポータル)に差し掛かる。帰投シークエンスは自動で処理され、二人はアリーナから跡形もなく姿を消した。


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