Circular Cline Collapse...(sleeping awake) :04


「では早速、今日の探索について方針をまとめていきましょう。マキナさんとアーチャーには、まずこの迷宮の衛士(センチネル)が誰なのかを確かめてほしい。それを把握しないことには、SGを破る以前の問題。須江部さん主従との接触、岸波さんの捜索も大切ですが…衛士の確認を最優先にお願いします。」


その方針に誰も異論はなかった。これまでの迷宮は、BBが迷宮の衛士をご丁寧に紹介してくれていたというのに、今回、BBは“センパイのためにじっくりコトコト煮しめた”としか言及していない。あまりにもサクサクとSGを突破されすぎた前例から衛士を隠すという方針に変更したのだろうか。


「そうね……まさか須江部君がってことはないだろうし、行方不明の岸波さんが第一候補ってとこかしらね」
「可能性はかなり高いな。岸波白野を衛士にするのは、マキナ相手に非常に有効だ」


アーチャーの発言に、むっとした表情をする凛。まるで、自分は有効ではないかのような物言いではないか。まあ―――…真っ先に迷宮を破られてしまった以上、言い返せないのだが。


「どうでしょうか……僕は、兄さんの報告を聞く限りではこの迷宮はミス・岸波のものとは思えないんですよね…」


ほぼ、生徒会内の意見が固まりそうなときに、まさかの会長からの異論に皆が目を丸くする。


「マキナさんも入ってみればわかると思いますが……この迷宮、ミス・岸波っぽくないんですよ。彼女らしくない。今のところは勘でしかありませんが、彼女以外が衛士である可能性も考慮するべきだと思います」


だが、ギルガメッシュやアンデルセンに並ぶ慧眼を持つレオのこと。その推測が的中する確率はかなり高いだろう。


「まあ、そうなると、やっぱり岸波さんは早く見つけた方がよさそうね。見つければはっきりするじゃない。彼女が衛士かどうか」
「その辺は同時進行でやるよ。でも…今頃二人ともおなかすかせてるかもしれないし、早く見つけてあげないと……」
「…そうですね。彼女たちがマキナさんの料理にありつけないのは不憫です。マキナさん、このポップオーバーとても美味しいですよ」
「どさくさに紛れてありがとうございます、総主」
「成る程。レディマキナは品性には問題があるものの、料理が上手というのはポイントが高いですね…」
「……………」


この白銀の騎士め。事実だとしても、何でかこの男に言われるとイラッとする。自分のサーヴァントであれば、脛蹴りの一つでもかましているところである。マキナはぐっとその気持ちを堪え、意識の外に追いやる。


「マキナさんに今一品性が足りないのは確かです。が…素材がいいのでその辺りは今後の教育次第でどうにでもなりますし、彼女は総合的に見てとても魅力的(ハイスペック)な女性ですよ。僕の妻には十分相応しい」


花嫁修業的なものにでも出すつもりなのか。勘弁してくれ、とマキナは表情には出さずともゲンナリする。地上に戻ったら、何がなんでも西欧財閥に捕まらないようにしなければ。

―――ところで、臥藤の行方については誰も気にしないのだろうか。一応彼の分も用意してあるのだが、トイレ掃除でもしているのだろうか。話題に上らない分、なんだかユリウスよりも憐れかもしれない。かといって、態々労いにでもいこうものなら、リアクションが面倒臭いことこの上ないだろうことも想像に難くないから困る。

とりあえず、彼とユリウスの分は紙袋にいれておこう。そう思ってマキナが二人分を戻していると―――…



「で、道化。我の分はどこにあるのだ?」


最早お決まりと化しているが、またもやアクシデント発生。突如、黄金に光る情報集積体が、人を形作ったかと思えばそれは、たった今、立ち上がって離れたばかりのマキナの席を奪ったのだった。声に振り向いたマキナの目前に、倣岸不遜な英雄王がいる。


「え………?なんでここに……………?」
「なんだその嫌そうな顔は。貴様の期待に応えて態々こうして罵りに来てやったのではないか。至上の喜びと噎び泣け」


まさかそんな理由でワザワザ出向いてくれるとは。昨日話しかけた時もつれない素振りだったし、“破滅の一途を辿ろうと関わりがない”とまで言っていたので予想ができないのも仕方がないだろう。まあ、きっとギルガメッシュは暇を持て余していただけなのだろうが。

黄金の鎧の爪先で、軽く尻を小突かれる。マキナは未だに振り向きざまに、眉根を傾げたままギルガメッシュを凝視していた。この問題にどう対処すべきかを考えている。


「我の道化(マスター)を気取るならば、給仕くらい満足にこなしてみせろ」


確かにギルガメッシュのことも大問題なのだが、タイミングが悪すぎる。これから気合を入れて迷宮に潜ろうというときに、大迷惑だ。後ろでアーチャーも何か言いたげにしているが、昨日のやりとりを考えると、二人の会話は防ぎたい。すると、やはりこの問題(ギルガメッシュ)には自分が率先して対処しなければ。


「……とりあえず、これどうぞ……」


自分用に用意したもので許してもらえるかはわからないが他にあげられるものもない。それにマキナ自身は味見を何度もしたので、正直そこまで空腹ではない。桜は慌てて予備のカップに紅茶を注ぎ、ギルガメッシュの前に差し出す。そして、それを“差し出して当然”とばかりに礼も言わずに啜るのだった。

それにしても、庶民のささやかな朝食まで簒奪するとは、なんて暴君なのだろうか。


「ふむ、味は悪くないぞ。雑種ども」


不満を言わなかったことに胸を撫で下ろし、尚その言葉を意外に思う。

しかし、ギルガメッシュはマキナの方を見て、踏ん反り帰りながら目を細める。今度は何が不満なのだ。


「我は退屈だ。道化、なんぞ余興でもして我を愉しませてみせろ。貴様は道化なのだからな、芸事は得手であろうが」
「いやいや…私、道化じゃないですよ…?貴方がそういってるだけで…」
「我が道化というのだから、貴様は道化以外の何者でもない。我が見た中でも最高に道化だ」
「だから道化じゃないし、芸もしません!」
「つべこべ言わず歌え、或いは踊れ。貴様の痴態を動画に編集して、蔵に収めておいてやる」
「やる前から痴態なの確定ですか!?………確かにそうですけど!」
「スローモーションに逆再生と複数のバリエーションを取り揃えておこう」


マキナは顔を真っ赤に茹で上げて憤った。


「べ、別にそんなの大したことないし!私なんて人生そのものが黒歴史だし…!」
「我の言うとおりではないか。やはり貴様自身道化の自覚があったのだな?」
「恣意的にとらえないでほしいんですけど!」
「ならばどういう意味だというのだ。貴様は虚しく踊り狂う道化そのものだ」
「……………」
「ふははは!泣くか?泣くのか、道化。ほれ、飴でもやろう。これで機嫌を直せ」


にやにやと嗜虐的な笑みを浮かべながら、マキナを見下すギルガメッシュはその言葉通り、マキナの真上にゲートを開き、色とりどりの飴玉を十個ほど降らせる。それがコツコツと頭にぶつかりながら、マキナも我慢ならずに言い返したのだった。因みに飴玉は、アリーナでエネミーを倒した時と同様、取得アイテムとして自動的にフォルダに登録されていった。


「そんなものでこの私が釣られクマー!…………馬鹿にしやがって!サーヴァント能力が戻ったらプラズマ焼夷弾ぶつけてやる!」


英雄王に対して怖れを知らぬ放言。しかしギルガメッシュは更に笑うばかりだった。成る程、既に彼にとってはマキナは『道化』でしかなく、宮廷道化師は王への自由な物言いを許される。その程度のレベルなのかもしれない。

だが遂にここで、もはや見てられぬとばかりにあからさまに大きな溜息を吐きながらアーチャーが間に割って入ったのだった。


「いい加減にしてくれ、英雄王。探索前にマスターの体力を無駄に消費させてくれるな。それとマスター、君もこんな安い挑発を青田買いしてどうする」


マキナの首根っこを掴んで、ギルガメッシュから少し引き離す。昨日の自分で体験してわかったが、このまま放っておいては埒が明かない。それに、このままの剣幕では、もしも間違ってマキナにサーヴァント能力が戻りでもしたらマキナは本当にプラズマ焼夷弾を具現化しかねない。


「アーチャーさんの言うとおりです。僕もマキナさんをいじりた…いえ、お話していたいのは山々ですが、今は迷宮探索が最優先です。間久部総書記、迷宮へゴー!です。」


レオも助け舟を出し、マキナ達を送り出そうとする。そうだ。マキナは総書記なのだ。生徒会の仕事を全うしなければ。マキナは、鼻息荒くも、これ以上の文句を噛み殺し、ギルガメッシュからやっと視線を外す。


「……わかりました。すみません。桜の紅茶だけ飲んだら行ってきます」


言われてみれば、否、言われなくても馬鹿馬鹿しい。このまま相手をしていても、ギルガメッシュの言葉通り玩具にされるだけだ。

ティーカップを口につけ、一気に傾けようとしたマキナの、その瞳に―――…


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