Circular Cline Collapse...(sleeping awake) :04

Circular Cline Collapse...(sleeping awake)
「何度通っても、無いものは無いだろうよ」


翌朝、再度図書館前を通りかかったマキナを見て、アンデルセンは、相変わらず小さな体で豪そうに腕組みをして言い放った。マキナ、眉根をかしげて立ち止まる。


「自分の前世に関する手がかりとなる記述を探しているのだろう?無駄だムダだ!そんなヒマがあったら、それこそ昨日のようにギルガメッシュに罵倒されにいくほうが余程有意義だ」


そう、マキナは昨日借りた叙事詩を返しにきたわけではない。その手に本は握られていない。


「“探してみないとわかからないだろう?”そんな目をしているな。いいか、俺が断言してやる。古代シュメールの蔵書を隅から隅まで読み潰そうとも、手がかりなど絶対に見つからない。」


―――確かに、アンデルセンの言うとおり。マキナは叙事詩以外の古代シュメールの蔵書を探しに来た。ギルガメッシュの人物像をよく知るために。そして…自分の存在の有無を確かめる為に。

アンデルセンはマキナにとっていぢわるな男だが、嘘を言うようなタイプでもない。それに、Aランクの“人間観察”スキルを持ち、物事の本質を鋭く見抜く彼のこと。その言葉は真実なのだろう。


「わかったよ、手間を省いてくれてありがとう。コレ、どうぞキアラさんと一緒に食べてください」


そういって、マキナは紙袋を二つ、アンデルセンに差し出したのだった。パルミジャーノレジャーノとスパイスのポップオーバーにベーコンエッグ風オムレツとスイスチャードを挟んだサンドイッチ。ココナッツとドライマンゴーの甘いポップオーバーにリーキのジャムとカスタードを挟んだデザートに、ニルギリを二杯。どれも自身の朝食用に拵えた副産物だ。


「ほお?さりげなく少女らしさをアピールか?あざとい奴め」
「いいえー誤解ですー今の私には朝食を作るしか能がないのでーー存在意義を保つための作業でしかありませんようー」


とりあえずマキナはぐいぐいと、昨晩の宣言通りに用意した朝食をしきりにアンデルセンに押し付け、そうしてまた走り去った。なんでもお見通しで口達者なこの英霊の前に長居をしたら、SGを1時間あたり13個くらい暴かれそうだ。

マキナは早速生徒会室へと向かった。







「おはようございます、マキナさん。―――おや、今日は髪型が決まっていますね」
「あ、ああ…はい。早めのブローが大事だと気付かされました」


マキナの形状記憶髪は常々、割とボリューミーにな感じになるので、それを抑える為にも結ったり編み込んだりすることが多いのだが、今日はかなり大人しくしている。アーチャーの根気強いブローのお陰だろう。

それにしても、今日も変わらず爽やかなレオの挨拶にマキナは否応なしに安堵を感じていた。この絶望的に近い状況にあって、尚日常(いつも)通りに振舞うのは、上に立つ者として極めて大事なことだ。それを自然に行うところに、王の素質が垣間見える。ある意味、「常に余裕を持って優雅たれ」を家訓とするらしい遠坂の凛と相通ずるものがある。まあ、彼女も女王様気質なところがあるし、当然だろうか。


「ところで…それはマキナさんのお手製ですか?」
「あ、ええ、………まあ…」


マキナは改めて、先ほどキアラ達にもお裾分けした朝食を広げる。一人前ならともかく、四人前を作るならば、正直それ以上は大して変わらない。マキナは、紙袋からごそごそと取り出して、テーブルの中央に配置する。しかし、先ほどのようにニルギリは用意していない。


「桜、紅茶お願いしてもいい?」
「あっ、はい!すぐに淹れますね!」


この場には桜がいるのだから、彼女に淹れてもらうに越したことはない。彼女の淹れる茶類は、本当に美味しいし、マキナはとても好きだからだ。頼まれた桜は、マキナの予想通り零れるような笑みを浮かべて、早速茶葉にティーセットを用意しはじめたのだった。


「マキナさん…」
「はい」
「僕たち、出会ってもう12年になりますよね」
「ええ、長いものですね」
「僕、マキナさんの手料理を食べるのはこれが初めてだということに気付きました…」


レオは、目を瞬いてポップオーバーを見つめている。―――まあ、出逢って12年といっても、実質ハーウェイ家の傍にいたのは通算4年ほど。しかも殆ど幼少の頃のことだから、料理といってもままごとになってしまうし。


「あ……でも期待しないでください。桜のような繊細な料理じゃないので」


マキナは、自身の料理がどちらかといえば大雑把であると認識している。白野は絶賛してくれるが、アーチャーにはよくお小言を貰うレベルなのだ。


「そう?アンタの料理、私は好きだけど。奥は深くないかもしれないけど一口食べて“おいしい!”って思えるのがわかりやすくていいわ」
「…確かにな」


睨んでいた端末を解放し、自分の分の朝食を受け取りながら凛が言う。相手が凛だからこそ、そのストレートな言葉が嬉しい。まあ、マキナのこれ以上のスキルアップの為には、桜やアーチャーに師事するのが一番だろう。ただし月の裏でそんなことをしている暇はないのだが。

しかし、―――珍しいことだ。あの8割小言のアーチャーまでもが、同調するとは。まあ、流石に人前で主人を扱き下ろすようなことのない、分別は持ち合わせているということだろう。


「…ありがと。でも私遠坂の中華もラニのエジプト料理も好きだよ」


ここへきて、マキナは少々後悔したのだった。

自身の朝食についてここまでリアクションがあるとは思わなかった。何故なら、マキナは特別な想いで作ったわけでもない、単なるついでだ。ダイナーで朝食を取るのと同じような気軽さで、口にしてくれればいいと思っていた。だからあまり注目されると、逆に困るのである。特に料理の腕があるワケでもないのに、人様にご馳走しようとするなど。白野たちに毎日のように作っていたから、抵抗がなくなっていた。

マキナが一人赤面して、軽くあたふたしていると、桜がティーポットとカップソーサーを並べ始め、場の空気を入れ替えてくれたので、少し救われる。隣にきた桜が、マキナに微笑みかける。その笑顔を見ていたら、マキナは些細な葛藤など忘れてしまったのだった。流石は健康管理(ヘルスマネージメント)AI……なのだろうか。


「では、朝食がてらのミーティングと行きましょうか」
「そういえば、ユリウスはまた偵察にでも出てるの?今日もいないみたいだけど」
「ええ……マキナさん達が探索に出る前の最終確認をしてくれています」


―――本当によく働く男だ。
ご苦労なことね、と凛も軽く溜息を吐いた。現実世界でのユリウスの状況を考えると、やはり心配になる。苦手意識はあるものの、レオと同様にやはり付き合いは長い。マキナが幼少の頃から、それなりに助けてもらったこともある。聖杯戦争中であれば殺すか殺されるかの関係でしかないが、今は味方だ。意識の外に追いやるのは、とてもではないが出来ない。それに、自分が探索に向かうにあたっての前準備をしてくれているともなれば、頭も上がらない思いだ。

何しろ、常に縁の下の力持ち的な役割を強いられ、尚邁進し、自分の身を削ってまでやり遂げようとする男であることは、よく知っている。帰ってきたら、桜の紅茶と朝食で一息いれてほしいところだ。

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