from Mayhem(Reboot):02


ギルガメッシュには今度こそ霊体(アストラル)化してもらった。
その言峰綺礼神父がどこにいるかもわからないので、虱潰しに歩くことにする。
コードキャストを使わず、マイルームから扉を開けて出る。
その瞬間だった。
扉を開けた私は、一人の少年と強制的に目が合う。

その少年は、要するに、2-A教室の扉の前に立っていた。
窓を背に寄りかかりながら、じっとこちらを見ていた。

2-A教室の扉は、全ての参加者のマイルームに繋がっている。
彼が私を待っているなんてことはありえない、ありえないはずだが…
彼は、私と目が合った瞬間、破顔したのだ。
そして今、ついに一歩、二歩とこちらに近づいてくる。

まずい、と思った。
迂闊だった。咄嗟に宝具での防御を考えた。
彼に微笑みかけられる覚えは無い。知らない少年だ。
だが――…彼は私を知っているのだろう。
今こうして、歩み寄ってくるのだから。
経験から導き出される答えは一つ、暗殺者――…!

現実世界では、私が気づくよりも先に対処してくれる人間たちがいた。
だがここでは、私は一人きりだ。
それに、こんな往来で宝具の対人使用などそう簡単には――


「おはよう、マキナ」
「!」


少年は、私の一歩手前で留まり、
危害を加える素振りも一切無く
そんな友好的な調子で話しかけてきたのだった。


「よかった、ちゃんと本選参加できていたみたいだね。
 全然見掛けないから心配したよ…」


誰、だ。ろう…
相手が私を知っていて、私が相手を知らない…
というケースは大いにあり得る。
これでも私は一応、世界的な有名人だからだ。
(だからこそ英霊になれたのである)

しかし、少年が自分に向ける眼差しは、それこそ親愛の篭ったもので
なんとなく馴染み深いような気がするのだ。

彼の服装は、

(私と同じように)中東の遊牧民風の装飾がなされており 、
彼の髪色は、

(私と同じように)まるで鋼鉄のようなプラチナブロンド 、
彼の虹彩は、

(私と同じように)青に血の赤が透けた紫色だ。


「ねえマキナ、僕のこと覚えてる?
 君と同じで予選とアバターを変えたからわからないかな?」
「えっと、…」
「シモンだよ。君の親友の須江部真文(スエベ・シモン)」
「!」


……確かに。言われてみれば納得。
確かに彼は、私の『親友』だった、だがそれは――
予選時にSE.RA.PHから振られた、ただの『役割(ロール)』ではなかったか?
間桐や彼…須江部が私の友人として設定されていた。
しかし予選が終わった今、友人面することに何の得が――…?


「一回戦の相手が発表されたんだ。僕の相手が君じゃなくて安心したよ」


“安心した”というのはどうやら言葉の上だけでなく
彼…シモンは本当に、心の底から安堵したような表情をして肩の力を抜く。
溜息を吐く様は、少し疲れが見てとれる。
しかしそれでも、そしてまたしても私に向けて微笑みかけるのだった。

……何が狙いなのだろうか。
とりあえずは適当に話を合わせておかなければ。


「そうだね…シモンとはやりづらいよ」
「でしょう?これから勝ち進むごとに、君とのカードが組まれないのを祈ることになりそうだ」


――だが、どちらかが途中敗退しない限り、いずれは戦う運命だ。
だからこそ、この戦場では軽々しく相手を“友”などとは呼べない。
現実逃避した者、切り替えの早い者を除いて。
でなければただの酔狂だ。


「なるべく長く君の役に立ちたいから――」
「…?」
「何か困ったことがあったら相談して。いつでも君の力になるよ」
「―――――。」


……………。
聖杯戦争本選が始まってまだ一日も経っていない。
しかし…早くも私の計画に想定外(イレギュラー)が二つも発生。

私は、それなりに危機察知能力には自信を持っている。
未だ短い人生ながら、長年培ってきたものだ。
表に出さないまでも、他人の顔色を読むことには常に細心の注意を払ってきた。
そして、その読みは殆ど外れたことがない。
しかしこの少年はあまりにもイレギュラーすぎる。
微塵も敵意を感じない。邪心を感じない。違和感を感じなさすぎる。
それがなによりの違和感となって私を困惑させる。

彼の言っている言語(コトバ)の理由(イミ)がわからない。


「…気持ちだけありがたく受け取っておくよ。真文は自分の戦いに集中して」
「ああ、もちろんだよ。じゃないと――――……ないから。」
「え?」
「なんでもない。―――それじゃあマキナ、
 僕は今からアリーナに行ってくる。サーヴァントとも仲良くするんだよ?
 あ、それと対戦相手はそこの掲示板に表示されてるから――」


またしても返答に詰まるが、そんな私を見てやはり真文はにこりと微笑み
そうして移動のコードキャストを使ったのだろう、廊下から消え去ったのだった。
真文の消えた場所を暫し見詰めていると、突如後ろから声がかかる。


「ほう、良い友を持っているではないか。道化」
「良い……ですか…?」
「アレは得難い存在だぞ。アレこそ、真に貴様“だけ”の友だ」
「………?」


須江部の言動の真意も掴めないのに
またここで余計な追い討ちをかけてくるギルガメッシュ。
何か人間の本質を捉えるスキルでも備わっているのだろうか…?
確か、“全知なるや全能の星(シャ・ナクパ・イルム)”とかいう
スキルがあったような――…どういうスキルかはわからなかったけど。

それはそうと、二階ホールの掲示板に対戦者が載っているのか。
早く敵を知らないと、後手後手に回ることになってしまう。
見に行ってみよう――







「―――…」


掲示板の前には、前を通り過ぎるマスターはいても
まじまじと眺めている愚鈍なマスターは、既にいなかった。
一回戦の相手は――…アレ?
載ってないぞ……?


「故障のようだな。道化、神父にクレームをつけにいくぞ」
「へ?あ、うん……」


故障、なのか…?
確かに、掲示板の内容――


  マスター::?
  決戦場::"一の月想海"



決戦場が決まっているのに、マスターが「?」というのはどうにも解せない。
決戦場の“一の月想海”とは、須江部の言っていたアリーナと関係があるのだろうか。
ひとまずギルガメッシュの言う通り、言峰神父に会いに行くとしよう。



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