仮病で皆を騙した罰が当たったんだろうか。
本当に風邪をひいてしまいました。
「うー…ダリぃ……」
まさか本当に風邪をひくとは思わなかった。
自宅のベッドでウンウン唸りながら、甲斐はあんな嘘をついた事を後悔していた。
物心ついた頃から風邪をひいた記憶がない彼にとって今の状況は本当に辛い。
頭はガンガンするし目眩はするし、身体も火傷するんじゃないかって位熱い。
喉もなんか変な感じだし、俺もう死ぬんじゃないかなぁ、なんて考えてしまう。
(昨日の状況じゃ、誰も見舞いになんて来てくれないしな……)
そんなマイナス思考に捕らわれていると、突然 部屋をノックする音が聞こえた。
どうせ母親だろう。
返事をするのもおっくうでそのままでいると、乱暴にドアが開かれる。
「あい?裕次郎、起きてんなら返事くらいしろよ」
「へ?凛…?!」
まさか平古場が来るとは思わず、甲斐はものすごく動揺してしまう。
「な、何しにきたんばぁ?」
はぁ?!とあからさまに顔を歪め、平古場が呆れたように言う。
「何って、見舞いに決まってるやっし」
熱で脳ミソ溶けてんじゃねーの、なんて相変わらずな態度だが、その手にはお見舞いの品が握られている。
何だかんだ言って優しいのだ この男は。
「来てくれて嬉しいけどよ、木手がよくオッケーしたな」
「や、永四郎にはもちろん言ってねーらん」
「あれだけ言われといて、よく来る気になったな……」
それとも、わんに会えなくて寂しかった?なんて冗談めかして聞いてみると、平古場は顔を赤くしてそっぽを向いた。
あれ?案外図星だった?
「今まで裕次郎が居なかった事なんてなかったからよー、なんか顔見ないと調子狂うんばぁよ」
普段こういう事を言うのは甲斐の方で、平古場は至ってドライだ。
ボソボソと照れた様に呟く平古場が新鮮で、身体のダルさなんて吹っ飛んでしまう。
「りぃぃぃん!!!やー、ホンット可愛いな!!」
「近寄んな!!!」
思わず抱きついたら、思いきりみぞおちに肘鉄をくらった。
「あがっ…!ちょっ…わん、今 病人…っ」
「あっ、ワリ!いつもの癖で!」
熱と頭痛だけで良かった。吐き気とかの症状だったら確実に死んでたぞ、コレ。
「やっぱ慣れん。こんな風に気ぃ使うのも嫌だからよ、早くよくなれよ」
それだけ言うと、平古場は早々に部屋を後にする。
どうやら部活を抜けてきたらしく、永四郎には絶対言うなよ!と甲斐に釘を刺していきながら。
(あそこまで言われたら、早く風邪治さなきゃな)
見舞いの品に入っていた冷えピタを張りながら、甲斐は再び布団の中に潜りこんだ。