わったーが全国へ行くためには、九州二翼みたいにならなければ!という結論が出た翌日。
皆がこぞってイメチェンしてきたのは、今となっては笑い話だ。
木手含め単細胞の塊集団だから、なんとなく皆の行動は予測出来たけど、一つだけ驚いた事があった。
あんなに髪に命を懸けていた凛が、綺麗な黒髪を金髪に染めてしまった。
「なぁ、凛は何で髪染めたんばぁ?」
もう何度めかの同じ質問に、凛が舌打ちする。
皆の変化も見慣れてきたくらい日付は経っているのだけど、やはり凛の金髪に関しては腑に落ちないままだ。
「やーもたいがいしつけーな……だから、これは朝起きたら自然にこうなってたんだって」
「ありえん!サイヤ人かよ!」
こんなくだらないやりとりを繰り返しては、答えをはぐらかす。いつもはこれで終わりだが、いい加減面倒になってきたのか、とうとう凛が折れた。
「じゃ、聞くけどよー。裕次郎は何でそんなにわんの髪に拘ってるんばぁ?やーには関係ない事やっし」
「何でって……やーの髪が好きだから」
……言った直後に後悔した。
あまりにもストレートすぎる返答に、自分自身ドン引きだ。
凛もすごい引いてる。うわーって顔してる。
ですよねー。
「……あー、えっと、裕次郎ってそっち系?」
「ち、違うさー!言葉のあやっつーか!誤解さんけー!!」
生来の頭の不出来でいらぬ誤解を生んでしまったが、ウソと言うわけではない。
自分のごわごわした毛質と違って、艶のある凛の髪が羨ましかったから、ちょっともったいないと思ったのだ。
そうしどろもどろに説明すると、凛は「やっぱキモい」と笑った後、少し真剣な顔をした。
「勝ちたいから。」
「え?」
「わったーの信じた主将が言ったんばぁよ。これが比嘉中に足りないものだって。たとえ馬鹿みたいな事でも、万に一でも勝てる可能性に繋がるなら、何だってやる」
「それが、比嘉中テニス部だから?」
「それが、比嘉中テニス部だろ?」
お互いの声が重なる。
そうだった。
凛は自由人で束縛が大嫌いで、そして誰よりも勝ちにこだわる男だった。
「ずりぃ…でーじかっこいい」
「えー、裕次郎やっぱわんの事そういう目で見てる……?」
「あらん!!」
人のことからかってばっかで小憎らしいから、夕日が反射してキラキラ光る金髪も結構好きかも、なんて思ったことは内緒にしておこう。