さすが全国大会。
色々な学校が集まるだけあって随分賑やかやなぁ、なんてのん気に構えていた白石の目に入ってきた 一つの気になる光景。
相変わらずふらふらどこかへ行っていた千歳が、他校の生徒と話をしている。
珍しい事もあるもんだと様子を伺っていたが、決して楽しく談笑している訳ではないとすぐにわかった。

「だーかーらー!なんでお前はそんな他人事なんだよ!」

相手は立海の丸井ブン太。
あの強豪校のレギュラーメンバーとあって、ちょっとした有名人だ。
屈強なメンバーが多い中で小柄な彼だが、特徴的である鮮やかな赤い髪がその存在感を引き立たせている。
ただ、あまり四天宝寺とは面識ないはずだが……

「千歳、自分なんかしたん?」

「おー、白石。俺もよくわからんばい」

何やら不穏な空気に、思わず間に入ってしまう。
おそらく当事者のくせに無関心な千歳に、丸井は更に苛立っている。
このままでは状況が悪化するだけ。面倒だけど、部長の立場としては他校との争いごとは避けたい。

「丸井君?ごめんなー。ウチの部員がなんかやったん?」

「なんかやった、じゃねーよ!さっきの試合で、俺の妙技パクったろぃ!」

「あー……」

そういえば、先の試合で千歳が「面白そう」と彼の得意技を拝借していたのを思い出す。
悪気があった訳ではないが、どうやらそれがご立腹の原因のようだ。

「あぁ、どっかで見たことあると思ったら綱渡りの子やね。あれカッコよかったけん、ちょっと借りてみたけど。悪かったと?」

「悪いに決まってんだろ!あれは俺だけの妙技なの!!」

威勢良く千歳に食ってかかっていた、丸井の表情が少し曇る。

「じゃないと、あいつがガッカリするから」

話がいまいち見えない四天宝寺の二人が首を傾げる。
思わず本音が出てしまったと気まずそうな丸井だが、このままでは説明不足だろうとボソボソと話し出した。

「俺の事、すげー憧れてる奴がいんの。俺の妙技に本当に惚れ込んでんだって。あいつにとって俺は絶対の存在で、俺もその期待に応えたくて……」

「だから他の人間に、丸井君の技を使われたくなかったんやな?」

白石の問いに、静かに頷く。

「八つ当たりだってわかってるよ。でも、他の奴が使える技なんて知ったら、絶対幻滅される。あいつの前だけでは“天才の丸井ブン太”で居たいんだ」

(よっぽど、その子のこと好きなんやな……)

あまり詳しくはないが、白石の知る限り、丸井はかなり強気な性格だ。
そんな彼の弱い内面を知り、思わず咎めるような視線で千歳を見てしまう。

「悪かった。もう使わんばい」

千歳が謝ると、俯いていた丸井が顔を上げ、笑った。

「わかりゃいーんだよ。次使ったら死刑だかんな」

いつもの勝ち気な笑顔で。


その後、通りかかったコートの脇で、他校の選手と談笑している丸井を見かけた。
キラキラとした目で丸井に笑顔を向ける相手―――氷帝の芥川を見て、白石は全てを悟る。

「心配せんでも、彼は丸井君しか見えとらんよ」

そんな事で不安になるなんて、丸井君もまだまだ無駄が多いな なんて思わず苦笑した。



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