黒糖より甘いの続き
まだまだ日本の生活には不慣れで、戸惑う事も多々ある。
そんな手探りの暮らしの中に、大切な物がいくつか出来た。
最近好きになった“黒糖”も、その一つ。
まぁこれに関しては、黒糖そのものよりも『きっかけ』がメインなんだが。
黒糖という菓子を教えてくれた平古場凛に、クラウザーは確かに惹かれていた。
「は?黒糖?」
「YES。コクトウ」
「黒糖って沖縄の土産とかにある砂糖だよな……」
何でお前そんなもの知ってんの?と赤也が聞き返す。
本来ならあまり関わりたくない人物だが、少ない人脈の中で一番最適だと、あえて相談を持ちかけた。
勘の良い人物に色々勘ぐられるのは面倒だから。
「この間、教えて貰いマシタ。持ってませんカ?」
「俺は持ってねーけど、比嘉中の奴ら当たった方が良いんじゃね?」
「……出来ればソレは避けたいのデス」
少々訝しがっていた赤也だが、理由は特に聞かず、心当たりを考えてくれた。
案外良い奴なのかもしれない。
彼の先輩である丸井なら持っているかもしれないと言うことで、丸井の元へ向かう。
お菓子が好きで、この合宿にもこっそり持ち込んでいる丸井でも、さすがに黒糖は持っていなかった。
どうやら黒糖は一般的な菓子ではないらしい。
落ち込むクラウザーに、見かねた丸井が小さな駄菓子を手渡してくれた。
「ま、似たようなもんだし、これで我慢しろい」
と渡されたそれは確かに似たような味がした。
「……で、わざわざ持ってきてくれたんか」
突如きなこ棒をクラウザーから差し出された平古場は、呆れたような声を出す。
本当は黒糖をお返ししたかったんだが、手には入ったのはこれしかない。けど似たようなものだから、と拙い日本語で説明してくれた。
「ハイ。この間のお礼デス!」
「別に気にしないでもいいやんに……」
だいたいお礼なら、無理して同じ物(この場合は代替え品だが)を用意しなくても良いのに。
律儀というかクソ真面目というか。
そんな感じの事を伝えると、クラウザーはそれではダメだと力説する。
「もう一度、貴方と一緒に黒糖が食べたかったんデス」
「何でよ?」
「凛に、笑って欲しかったカラ」
「!!」
凛、と突然名前を呼ばれ、息が止まるほど吃驚した。
普段呼ばれ慣れてる名前なのに、不意打ちすぎて動揺が隠せない。
自覚があるのか、無意識なのか。
その辺はわからないが、好意を持たれている事は確かだ。
おそらく、他の連中よりもずっと。
「ドウシマシタ?」
そのまま黙ってしまった平古場に、クラウザーが尋ねる。
覗きこまれ、その距離が近くなったり更に意識してしまう。
「べ、別になんでもあらん!」
「……?そうですか」
ただ、今までよりも意識した事で、なんとなく自分でもわかったことがある。
「やー、そんなに黒糖が好きなら、今度またおばぁに送って貰ってやるよ」
「ハイ!その時は一緒に食べて下サイ!」
「……考えとくさぁ」
苦手だと思っていたけど、少しは歩み寄るのも悪くないかも。
そんな事を思いながら、心なしかいつもよりも甘いきなこ棒を食べた。