「あー、また永四郎にゴーヤー食わされたー」
「あにひゃー容赦ねーよなー」
「鬼だばぁ」
相変わらず3−2の問題児コンビは木手に怒られている様だ。
田仁志は呆れながら二人に近づいた。
「やったーも凝りねーな。毎回毎回木手怒らせて……」
木手が怒るのも無理は無い。この2人ときたらとにかく自由過ぎる。
甲斐は副部長の癖に遅刻を繰り返すし、平古場は練習中でもフラリとどこかへ消えてしまう。
居たら居たでうるさいし、言う事を聞かない事もしばしば。
自分が部長でなくて良かったと、あの光景を見る度に思う。
「ただでさえ大変なのに、主将もいつかストレスで過労死しそうさぁ」
そうため息をつき呟くと、2人は大げさに肩をすくめた。
「慧くん分かってねぇなぁ」
「そうならないようにわざと永四郎怒らせてんだよ」
「はぁ!?どういう事だよ?」
意味がわからない。田仁志が聞き返すと平古場が「察しの悪いデブだな」と悪態を吐きながらも続ける。
「永四郎ってさ、あんま笑ったりとか泣いたりとかしないっていうか感情表現に乏しいとこあんだろ?なんかそういうのって色々溜め込んじまいそうやっし?」
「そうそう。だから感情表に出してストレス発散して貰おうっていう、わったーの優しい心遣いなんばぁよ」
「そこで怒らすっていう選択肢がやったーらしいさぁ……」
「やしが永四郎笑わすとか、M−1で優勝するより難しくね?」
「だーるなぁ!」
「ええ、全く。怒らせるのは簡単ですよね」
「「「!!!」」」
三人が(というより主に2人が)笑った所でタイミングよく当の本人の声がした。
気配もなくいつの間に背後に居たのだろう。
「ったく、真面目にアップしときなさいよと言ったのに君たちは……いつまでもくだらない事をべらべらと」
木手のメガネがキラリと光り、緊張した空気が流れる。
「これはもう一度ゴーヤー……
「やっけー!裕次郎逃げるぞ!」
バタバタと2人が走り出し、それを木手が追う。
取り残された田仁志はポカンとその光景を見つめていた。
「永四郎も、ちゃんと分かってるんばぁよ」
肩を叩かれ振り向くと、知念が苦笑しながら立っていた。
再度全速力で走っている三人の方に目をやると なるほど、なんとなく嬉しそうな木手の顔。
「ただのS心って訳じゃないんだな……」
これも一つの歪んだ愛情。
理解はしたくないけど、まぁこういうのもアリなのかな。