強化合宿の休憩時間。
平古場は祖母に持たされた黒糖の封を開け、その一欠片を口に放り込んだ。
じんわりとした糖分が疲れた体に染み渡る様に溶ける。
慣れない土地で故郷の味を口にしホッとしたのか、思わず笑みがこぼれた。
そんな時ふとこちらに向けられた視線に気づく。
じっと平古場を見つけるのは、彼と同じ金髪の、しかし彼の人工的な物とは違う天然物の金の髪。
(…外人、苦手なんだよな……)
どうか話しかけるなよ、という平古場の願いも虚しく、クラウザーはこちらに近づいてくる。
「ソレは何デスカ?」
意外にも掛けられた言葉は日本語だった。大嫌いな英語でないことに少し安心するものの、正直コミュニケーションを取りたい相手ではない。
というか面倒くさい。
「黒糖。」
「コクトウ?」
一言答えれば済むと思っていたのに、聞き慣れない単語にクラウザーはますます興味を持つ。
「黒砂糖の事さぁ。えーっと、ブラックシュガー?でいいんかな?わんの地元のお菓子」
「oh」
納得はした様だが、視線はまだ黒糖の袋に注がれている。
その微妙な間がなんだか落ち着かず、平古場はクラウザーに向かって袋を差し出した。
「興味があるんだったらかめよ」
「?何デスカ?」
「あー、食べてみれってこと」
「……イタダキマス」
戸惑いがちに出された指が黒糖を摘み、口へと運ばれる。
そんな姿すら外国人は絵になると思う自分はやはり日本人なんだなぁ、なんてどうでも良いことを考えながら、その様子をじっとみていた。
「美味しいデス」
しばらく口の中で黒糖の固まりを転がしていたクラウザーが、嬉しそうに呟いた。
思ったよりも素直な反応に、平古場も表情を和らげる。
「こんな見た目だから、最初変なモン食ってると思っただろ?」
「正直……でも食べている時のアナタがとても幸せそうな顔をしてたカラ、気になって」
──黒糖も、貴方も。
「……え?」
「ゴチソウサマデシタ」
呆気にとられた平古場が何か言い掛ける間もなく、そう告げるとクラウザーは素早く立ち去った。
軽く振り返った時に見せた微笑みは、とても“アイスマン”と言われた冷酷な人間には見えない。
「ぬーやが、あにひゃーは……」
何とも言えない気持ちに戸惑いながら、平古場はただ呆然とその背中を見送っていた。
やっぱり外人は苦手だ。
しれっとああいう事を言ってのけるから。