「本日限り有効です」の続き

世間はクリスマス真っ直中。
都会の様な派手なイルミネーションにはもちろん見劣りはするが、俺らの地域もそれなりに華やかに飾られていた。
綺麗な光を放つ大きなツリーを裕次郎と二人で見に来ていた俺は、いつもとは違う距離間に少々戸惑う。
それは普段の適度な物とは違った、もっと近しい人の距離。

──また裕次郎の悪い癖が始まった。

話は俺の誕生日に遡る。
ちょっとした気まぐれから、俺と裕次郎はその日限定でカップルを演じる羽目になった。
もちろんネタというか単なる馬鹿馬鹿しいお遊びでしかなかったのだが、人の心理というのは侮れない。
なんとなく、それもアリなのかも なんて考えた自分がいた。
その日が空白だったかのように、それ以降お互いの関係に全く変化はない。
いつもと変わらず部活をしてクラスでバカやって。
ただ、何も変わらなかったとは言い切れないのだ。
裕次郎は知らないが、少なくとも、俺の場合は。

そして今日、再びその状況は訪れた。
「いきが二人でこういう所もどうかねー」なんて何気なく言ってしまった俺に、裕次郎は悪戯っぽく笑う。

「じゃあ、凛の誕生日の続きしようぜ!」

ノリで生きてるこいつの悪い癖。
人の気も知らないで、思いつきであんまりこういう事言わないで欲しい。

イルミネーションの中心であるクリスマスツリーがそびえ立つ広場は、それなりの人で賑わっている。
なんだか落ち着かなくて、キラキラと光を放つツリーを眺めながら時折隣の裕次郎を盗み見た。
こいつは一体何を考えているんだろう。
その横顔を見つめていると、視線を感じたのか裕次郎もこちらに目線を向けた。
目が合い、ふと緩んだ裕次郎の顔はやはりいつも見慣れている表情とは違っていて……。
ますます落ち着かなくなってしまった俺は、もうとうに興味の失せたツリーを必死で見ているしかなかった。

「そろそろ約束の時間だなー」

夕方に部活連中とクリスマスパーティーの約束をしていた俺たちは、会場である田仁志の家へと移動する。
まだ16時前だというのに、海岸線はすっかり夕日のオレンジ色に染まっていた。
先ほどとは違い人気のない道を、二人肩を並べて歩く。
木々に反射する光の粒は、まるでイルミネーションの続きの様だった。

「そういや、皆の所にいく前に凛に渡したい物があった」

「ぬー?」

「クリスマスプレゼント」

ポケットをゴソゴソと探っていた裕次郎は、小さな袋を俺に渡す。

「プレゼントって、後で皆で交換すんだろ?今渡してどうすんばぁよ」

「これは別。好きな奴にはちゃんと特別に用意しないとな」

そう言って微笑む裕次郎に、一度は手にした袋を再び突き返した。

「……いらん」

「あい?何でよ?」

「何でも。これは受け取れん」

「折角用意したんやし、受け取れよ」

「…………」

手に握らされたその袋は、ずっと心に引っ掛かっていた言葉を俺の口から吐き出させた。

「裕次郎は、」

「ん?」

「裕次郎は何で思いつきでこういう事さらっとやるんばぁ?わん、やーの考えてる事が全然わかんねぇ」

「凛……」

「裕次郎にとっては暇つぶしの何でもない遊びかも知れんけど、わんは……

「とりあえず、それ開けてみ?」

俺の言葉を遮り、裕次郎はプレゼントを見るよう促す。
相変わらずのマイペースさにため息をつき袋の中身を確認すると、中にはシルバーの指輪が一つ入っていた。

「それ、わんの手作り。結構苦労したんだぜ」

シンプルに見えるが細かい細工が施されたその指輪は、確かにかなり手の込んだものだった。

「ったく、思いつきでそんなに手ぇ掛けたりしないっつーの」

「じゃあなんで……」

「こんな事したかって?そりゃまぁ…」

一度言葉を区切ると裕次郎は俺の手から指輪を奪い、それを俺の指にはめた。

「やーがしちゅんだから」

よりによって左手の薬指に。

「……っ」

「いくら冗談めかしてるからって、フツーただの友達にこんな事しないだろー。察しろよ」

「でも裕次郎、全然そんな素振りなかったやっし!」

「急にそんなんなっても、凛だって混乱するだろ。だからおふざけでもいいから、ちょっとでも意識してくれれば良いかなって」

何の言葉も出なかった。
こんなバカ犬のトラップに、俺はまんまとハマってしまった訳だ。
悔しいやら情けないやら恥ずかしいやらで、本当にどうしようもない気持ちで黙っていると、裕次郎がのぞき込んできた。

「まぁそういう訳なんだけど、やーの気持ちはどうなんよ?」

「しらね。」

「ちょっ……!知らねって何だよ?!」

不安げな顔の裕次郎を置き去りにして歩き出すと、慌てて後を着いてくる。その姿はさながら捨てられる犬の様だ。
少しばかりの仕返しに満足した俺は、歩いていた足を止め裕次郎の唇に自分の唇を重ねた。
あえて言葉にはしない。
わかるだろ?それくらい察しろよ。


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