「あいひゃー、降ってきたさぁ」
部活を終え帰り支度をしていた部員達は、そんな平古場の言葉を聞いて、窓に集まってきた。
「あー、結構酷い降りやっし」
「これからどんどん強くなりそうやんやー」
降り出して間もないのに、雨足は段々強さを増してくる。まるで台風の様だ。
練習を早めに切り上げた木手の判断は正解だった、と皆が思う。
「空、真っ暗だね。この分じゃ雷も……って言った側から来ましたか」
濃灰の空に眩しい閃光が走り、少し遅れて地を響く様な音が聞こえる。
心なしか知念の目が輝いているが、そこは誰もツッコまない。
「酷くならんうちに早く帰ろうぜ」
田仁志がそう言うと、皆は頷き鞄を手にする。
そんな時、甲斐がポツリと呟いた。
「わん、もう少しここにいるさぁ……」
いつもより覇気のない声。空がゴロゴロという度に身を縮ませているのは、
「甲斐クン、もしかして雷怖いとか?」
「……!ぬ、ぬーんち分かったんばぁ?!」
どうやらそういう事だ。
慌てる甲斐に、平古場が吹き出す。
「ゆうじろっ…!やー、雷怖いとかしんけん犬みたいやっしー!」
「かしまさい!目の前の木に雷が落ちた幼少期のトラウマを持ったわんの気持ちが、凛に分かる訳ないさー!」
からかわれた甲斐は真っ赤になって反論するが、雷音にいちいち律儀に反応している。
その姿は平古場が言うように、雷に怯える犬のそれに似ていた。
「で、甲斐クンは部室に残るの?」
「うん。外に出るなんて無理さー」
「一人で?いつ収まるかわかんないのに?」
「うっ……でも仕方ないやっし」
木手の言葉に甲斐は困った様な顔をするが、外に出れない以上仕方がない。
一人残るのは不安だが、まぁせめて雷が遠のくまでの我慢だ。
先程までからかっていた平古場だが、肩に掛けた鞄をテーブルに置くと、乱暴に椅子に座った。
「凛……?」
「仕方ねーからわんも残ってやるよ」
一人にしてショック死されても困るし、なんて面倒くさそうに言うが、これも彼なりの気遣いだ。
「それは嬉しいやしが、いつ帰れるかわからんし」
「気にさんけー。今日は暇だし飽きたら帰る」
「……ったく君たちは」
ため息混じりにそう一言呟き、木手は外に出て行く。そして少ししたのち、手にいくつかのペットボトルを持って戻ってきた。
どうやら自販機で調達してきたらしい。
「ただ待つだけじゃ退屈でしょ。雷の音を聞きながらお茶するなんて、ちょっと悪趣味だけど」
「木手……」
「俺も付き合うよ。君たち二人残して帰ったら、部室に何されるか分かったもんじゃないし」
素直じゃない木手の態度に知念と田仁志は苦笑する。
そしてお互い頷くと、空いた椅子に座った。
「わんも残る」
「なんか面白そうだしな」
小さなお茶会が開かれて一時間くらいした頃、空が明るくなっているのに気付いた知念が窓を覗く。
「お、雨やんださぁ」
「しんけん?」
雷もいつしか遠のき、空にはうっすら日が差している。
部室の後片付けをして扉を閉めた頃には、綺麗な夕焼け空が広がっていた。
「皆、今日はにふぇーでーびる!」
一歩先に出た甲斐が振り向き、ぺコリを下げる。
「明日は、晴れると良いですね」
返事の代わりにそう呟いた木手の台詞に、皆が笑顔で頷いた。