――もしも君と同じ時間を過ごしていなかったら。

部活を引退してから、時々こんな事を考える。


日が暮れ始め、赤く染まる教室。
知念と平古場は、特に何をする訳ではなく、放課後の時間を過ごしていた。
今までならこの赤く染まる空が藍色に変わるまで、無心でテニスボールを追いかけていたのに。
引退してたった数日、一日というのがこんなにも長い事を実感する。

「なぁ、知念。なま何考えてる?」

「ん、別に何も」

机に突っ伏したまま聞く平古場に、知念は今日配られたプリントに目を通しながら答えた。
なんとなく、知念も同じ様な事を考えてるんだろうな、と平古場は思う。
そうでなければ、こんな宙ぶらりんな時間を過ごすはずがない。

あー、とため息の様な小さな声を発し、机に額を預けたままの平古場が呟く。

「もしもダブルスを組まなかったら、こんな風にやーと離れるのが寂しいと思わなかったあんに」

共に過ごした時間が長過ぎた。
初めは慣れなかった視線の高さも、身長さ故の歩幅も、もう自然に身に付いてしまった。
別に部活が無くなったからといってぱったり途絶える程稀薄な関係ではないけれど。
それでも、段々とお互い過ごす時間は減っていく。
今日の様な時間も、いつまでも続ける訳にもいかない。

「わん、知念中毒だばぁ」

「……わんも同じさあ」

夕陽でオレンジに染まる金髪の頭に、知念の大きな手が触れた。

「ずっと、今のままで居れたらいいのにな」

その知念の一言は、ガランとした教室に鳴り響く鐘の音と重なった。

それでも、優しく、でもどこか寂しい泣きそうなその声色を、いつまでも忘れないだろうと平古場は思った。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -