(新垣・卒業式)
小さな頃から一緒だった僕たちは、友達と言うよりも兄弟、年は違えど双子みたいな存在だった。
共に行動するのが当たり前になってしまい、離れるとどこか落ち着かない。
多少の苦労はあれど、一緒に居るためならとその努力も苦にはならなかった。
それでも、世の中にはどうしようも無い事がある。
たった一歳の差をどうしても越えられない、人生で二度目の、春の別れ。
この時期の沖縄には珍しく、雲ひとつない文句なしの晴天になった。
今日は卒業式。
共に全国目指し頑張ってきた先輩たちも、今日をもってこの比嘉中を去ってゆく。
見送る側として式に参加していた僕は、退屈な校長の話を聞きながら、三年生たちの事を考えていた。
思えば本当に個性な人達だった。
すごく厳しかったけど、誰よりも部活を愛し、皆の面倒を見てくれた木手主将。
部のムードメーカーで、いつも太陽みたいに明るかった甲斐さん。
風の様に自由で、不思議と人を惹き付けていた平古場さん。
寡黙で一見怖そうだけど、後輩の僕たちに優しく指導してくれた知念さん。
とにかくパワフルで、皆の兄貴的存在だった田仁志さん。
そして……
不意に周りから椅子を動かす音がして、僕も慌てて立ち上がる。
体育館に響き渡る校歌の余韻を残して、式は終わりを告げた。
HRを終え校舎から出ると、外は卒業生と在校生でごったがえしていた。
その中によく見知った坊主頭を見つけ、声を掛ける。
「知弥!」
「おー、浩一」
僕の姿を確認した知弥が、近くまで駆け寄ってきた。
その様子はいつもと同じだが、制服の胸に付いた造花が特別な日だと物語る。
「とうとう、わんも卒業かぁー」
しみじみ呟く幼馴染みの言葉に、頷くことしか出来ない。
本当は真っ先に「おめでとう」と言いたいのに、言葉が上手く出てこないのだ。
しょぼんとしてしまった俺を見て、知弥が慌てて明るい口調で喋り始めた。
「な、3ー2の問題児コンビみたか?あったーすげぇぞ。平古場は告白順番待ちの列が出来てるし、裕次郎はボタンの奪い合いされてる。」
本当モテる奴はすごいよなぁ、と笑う知弥に力ない笑顔で同意する。
そんな様子を見た知弥は一つため息を付き、僕の髪の毛をぐしゃぐしゃっとかき回した。
「ったく、やーは3年前と全然変わんねーな。いい減わん離れしろっての!」
「ちょっ…!知弥、痛いって!」
「どーせ家隣同士なんだし、高校だってエスカレーター式なんだから同じ敷地内やんに?そんな顔さんけー」
ひとしきり人の頭をかき回した後、知弥はにかっと悪戯っぽい笑顔を見せた。
「まぁ、泣かなくなっただけ成長したか」
「……かしまさん」
仕方ないからこれからも一緒に登校してやる、なんて僕離れ出来てないのは知弥も一緒じゃないか。
立場は違えど、結局は似た者同士。
そう思ったら、寂しさも薄れてきた。
後、たったの365日。
「卒業、おめでとう」
その言葉を合図に今、それぞれの一歩を踏み出した。