木手永四郎は面倒見(仮)がいい



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 お風呂上がりに自分の髪を乾かしていたら、永四郎がやってきて言った。
「やってあげましょうか」
 いつもならすぐさまドライヤーを手渡して、永四郎の指先の感触を堪能するところだ。
「ううん。平気」
 けれど今日はなんとなくそう返事をした。特に理由はなく、本当にただそういう気分なだけだったのだ。
 永四郎だって気にした様子もなくて、そうですか、なんて素っ気なく返事をしただけだったし。
 なのに。

 ベッドに腰掛けて脚をぶらぶらさせていると、落ち着きがないですよ、なんて永四郎は私を咎める。だというのに今日も懲りずに同じことをしているのだから、もしかしたら私は永四郎に叱られたいのかもしれない。
 呆れられはしても見捨てられはしないとわかっている人からのお小言は、時に甘く響く。そんなことを口にしたら、それこそ永四郎に呆れられそうだと思った。
 ――などと考えながらドライヤーの温風を浴びていた私の足下に、おもむろに永四郎がかがみ込む。
「ちょ、っ永四郎」
「君は髪を乾かすのに集中して」
 そのまま無造作に足首をつかまれたものだから、思わず変な声が出た。
「俺はこっちをやってあげますよ」
 こっち、と言いながら永四郎は見覚えのあるものを取り出した。いつも使っている保湿クリーム。チューブじゃなくて大容量のやつ。その蓋を開けて、形の良い長い指が白いクリームをすくい取った。
「ん、っ」
「冷たい?」
 温度なんてわかりはしない。
 永四郎の指が、手のひらが、私のかかとを包み込んでぬるぬると撫でている。乾燥してひび割れてしまわないようにいつも塗り込むそれは、普段自分でする時には何も感じないのに。
 経験上、こんな時に抵抗しても無駄なことはわかっていた。おとなしくかかとを好きにさせていたら、ひとしきりクリームを塗り込んで永四郎は満足したのだろう。ルームソックスまでいつの間にか用意していて、それを私の足に履かせた。
「できましたよ」
「ありがとう……」
 この状況でそれ以外に何か言えただろうか。ドライヤーの温風のせいじゃなくて顔があつい。
「ほんと、面倒見がいいよね」
 こんなことまでしてくれるなんて、と冗談めかして言った私は、直後後悔することになる。
「面倒見がいいんじゃなくて下心があるだけです。俺も風呂に入ってきますから、ベッドを暖めておいてくださいよ。ああ、寝ないようにね」
 その言葉の意味がわからないほどの子供じゃない。私も、永四郎も。
 強制的に心の準備をさせられる。
 一人取り残された私は、永四郎が戻ってくるまでのわずかな時間を、ベッドの上で頭を抱えて過ごす羽目になったのだった。

2021/03/21 up
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