zzz | ナノ
俺には好きな奴が居て、そいつはどうしても手に入らない女で、ついこの前まであんな幸せそうな表情するもんだから何時もみたいに略奪なんて事はほんの少しも脳に浮かばなかった。本当ならば欲しいものは手に入れる主義の俺様だ‥だけど、其れをしなかった。彼奴ならば彼女を幸せにしてくれると解っていた、認めていた‥安心していたから
「ね、どして‥?」
しかしながら彼奴は彼女を幸せにする所かこんな風に悲しそうな表情ばかりをさせている。‥彼女にだけではない、部員達に教員に、そしてこの俺様にも
だけど一番心に傷を負ったのは彼女だろう。愛する人が目の前で死んだのだから、其れが車にひかれそうになった猫を助ける為だなんて馬鹿かと思うほど。あんなにも普段落ち着いていた筈の彼奴が猫のために自らを犠牲に‥なんて想像がつくか?俺は笑ってしまった、掠れた‥笑いだった
どうして彼女を置いていくんだって、お前には"もしも"の事を考えるようにって何時も要っていたのによ。喪服姿に身を包んだ彼女に俺たちは葬儀が済み棺桶からしがみついて涙を流す彼女を茫然と眺めていた
「ね、侑士‥」
「名前」
「侑士、どうして逝っちゃったのよ」
「‥名前、時間だ」
「あたしも逝ったら、侑士のとこに行けるかな?‥会えるのかな」
「名前!」
「放してよ、やめて!侑士から離れたくないの‥跡部だって解るでしょ?」
泣き崩れる彼女に、どれ程の時間が経ったのだろう。部員達は先に帰らせた。此の彼女の姿を見せるのが嫌だったから‥そして、彼等も其れを望んでいなかったから
肩に手をやる俺の手を振り払った彼女は壊れたように彼奴の名を繰り返す。掠れた声で何度も何度も、呼びかける姿に俺は胸が掻きむしられる様な思いに陥った
悲しみに暮れる彼女を何度抱きしめようと思っただろう、しかしながらそれすらできないなんて非力な俺は‥、こういう時こそだろう。優しく彼女に接するなんて事は出来なかった。いつしか俺の目の前からいなくなりそしてそこには朱い紅い雫が雫だけが 遺されるような気がして、気が狂いそうになる
「お前、何考えてんだ」
「‥、侑士に会いたいの」
「解ってんだろ!彼奴は‥、彼奴はもう死んだんだ。居ねぇんだよもう」
「解ってる、だから会いに逝くの」
「馬鹿な事考えるのはやめろ‥お前、自分で何言ってんのか解ってんのかよ」
「‥跡部にはさ、解らないよ」
「解ら、ない‥?」
「だってそうでしょう?」
「‥どういう、意味だ」
「跡部もさ、一度本当に人を好きになったらいいよ‥遊びなんてやめて」
手が、震える‥動揺の隠せない俺の瞳。
彼女の呟いた一言一言がぐさりと胸に突き刺さり、息が出来なくなる。彼女からこんな言葉を突きつけられるとは思っても見なかった。泣きはらした目で俺と視線を合わせる彼女に俺は震えた声で口を開いた
「遊びだと?」
「跡部何時もそうだもんね、本気になんてならなくて‥女の子泣かして。酷いよ」
「どうしてお前にそんな事が解るんだよ」
「だって、昔私がそうだったんだもん。」
「‥‥‥、?」
「侑士と付き合うずっと前、私は跡部が好きだった‥だけど、其れを忘れさせてくれたのが侑士だったの」
「そんな様子ちっとも見せ「見せられる訳無いでしょ?跡部が女の子達と遊んでるの何時も見てたんだから。」
「俺は‥、お前が」
「だけどねもう今は何とも思ってないの、‥今、私の中にいるのは侑士だけ」
「‥‥‥‥」
「な、のに‥どうして逝っちゃうかな」
「悪ぃ、先に帰ってる」
「ね、‥どうして何も答えないの?」
「馬鹿な事だけは考えるな‥」
扉に手をかけると俺は無駄にまで立てた馬鹿でかい音と共に扉をガシャンと閉める。そして扉の外に出てしまえば‥どうしてだろう、足にも、腕にも身体にも力が入らない
落ちるように座り込んだ俺の瞳からは涙が溢れ、其れを必死に隠そうと手で口元を覆った。それでも俺は彼女を愛していた、あの頃の俺はあまりに幼くてけして振り向いてくれない、彼奴のことを好きだとばかり思いこんでいた彼女に何からの反抗を見せたかった
他に術を知らなかったんだと、それ以外に一体どんな手段があったと云う?
しかしながらもう全ては終わってしまったことで、何も出来ない俺は何も出来ないまま只泣き崩れる彼女を見ている事も出来なくて、抱きしめる事も出来なくて、愛してると伝える事も出来なくて
手を伸ばしてはいけない、
一緒にいてはいけない 、
逃げてはいけない 、
見てはいけない 、
触れてはいけないんだと
そう言い聞かせて、
ねえその視線の先にはもう誰もいないんです だからお願いだか ら
そんな表情で遠くを見ないで、俺を見て
(^ω^)------------->
Sさまより相互記念頂きました
バッドエンド大好きです!
感涙作品をありがとうございました^^