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「柳生」

「に、おうくん…」


事故のあった日から今日で1週間。目の前で最愛の人を失った私は、ロクに食事をとらず、自室に塞ぎ込んでいました。今の私では人前に出ることなど出来ない。


「はぁー…とりあえず飯、買ってきたから食え。話はその後じゃ」

「……はい」


常に頭の中では1週間前の惨劇が巡っている。フラッシュバックするそれはより鮮明で、時には吐き気さえ催すのだ。

沈黙が降りた部屋の中、時計と袋が擦れる音だけが耳を支配する。仁王くんが持ってきてくれたパンを食べ終えると彼はお茶が入ったペットボトルを差し出してくれた。


「仁王くん、ありがとうございます」

「あーうん…んでな、その…」


いつもより口数が少なく、何だか口篭っている様な気がする。彼なりに配慮しているのだろうか。


「この間の話なんじゃけど」


ずくん。


「チャリに乗っとったときな、」


ずくん。


「名前が「仁王くん、いいです」

「今は、彼女の名前を聞きたくない」


ああ、あれほど焦がれていた名前を聞くことさえ私の心は許してくれない。キリキリと痛みを告げるそれは、暫く収まるつもりはないようだ。


「柳生、お前…」

「ごめんなさい、折角来て頂いたのに」

「違、」


目を丸くした仁王くんに謝罪を述べれば、すぐに否定の言葉が返ってきた。そんなに塞ぎ込んだ私の顔が滑稽ですか。



「泣いとるぞ、お前」



流し忘れた



091123





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