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『柳生さん柳生さん』


部活が終わり、皆が着替えている中、仁王くんは私の元へやって来ました。彼が跳ぶと、だらしなく結ばれたネクタイも慣性に則って上下に跳ねています。


『帰り、コンビニ行かん?』

『下校途中の寄り道は校則違反です』


まぁまぁ、固いこと言いなさんな、と背中を押す仁王くんは、どこか嬉しそうです。


『名前が言いおったんじゃ、コンビニ行こうって』

『…今回だけですよ』


名前さんが言うなら仕様がない、と思っていたら、柳生は甘いな、と真田くんに溜息を吐かれてしまいました。


『す、すみません委員長』


ああ、そういえば彼は我が風紀委員の長でした。風紀委員が率先して規律を乱してどうするのでしょう。失言した、と焦っていたら、真田くんは口元を緩ませて、行ってこい、と背中を押してくれました。後ろを振り向くと、笑顔の皆さんがそこにいました。






校門まで自転車を押しながら走ると、名前さんが塀の上で本を読んでいるのが見えました。名前を呼べば、私たちに大きく手を振ってくれています。


『柳生ー!受け止めてねー!』


頭上から大きな声が降ってきたと思ったら、いきなり私は影に包まれました。これを反射と言うのでしょうか、気付けば、続いて手を広げて飛び降りた名前さんを受け止めていました。


『ナイスキャッチぜよ』

『名前さん、確認も取らずに飛び降りるとはどういうことですか!もし私が受け止めなかったら』

『受け止めてくれたからいいじゃん』


抱き着いたまま離れない名前さんを引き剥がして、崩れたネクタイを整えます。そして両手を放したため倒れてしまった自転車を起こしました。すると二人はサドルと本来荷台が置かれる筈の場所に飛び乗りました。…また、三人乗りですか。


『あなたたちは私が風紀委員だということを忘れているようですね』

『何じゃ、人のこと言えんくせに』


先程の真田くんとの会話を聞いていない名前さんは首を傾げています。それはともかく、


『降りたまえ』


そう睨みをこめて言ってみたものの、彼らは「やだ」とそっぽを向いてしまいました。仕方がないので、自転車に跨れば「出発!柳生号ぉ!」とまぁ何ともセンスのない名前を付けた彼女の声が耳元に響きます。


『そーいえば、もう少しで柳生の日だね。八月九日!』

『…私の誕生日はまだ先ですが』

『ほー…成程、柳生の日か』

『だから何なんです私の日とは』


お前さんは知らんくていいんじゃよ、と仁王くん。あと二日だよ、と名前さん。…いい加減答えを教えなさい。



未来消滅まであと



090822