zzz | ナノ
ギラギラと太陽が肌を焼きつける中、私は一生懸命自転車をこいでいます。
『柳生!もっと早くこいで!』
『無茶です名前さん』
『こりゃ日が暮れるのぅ』
後ろには名前さんと、何故か仁王くん。俗に言う、三人乗りというものです。…私は今日、生まれて初めて自転車の後ろに人を乗せました。しかも三人。
『大体警察に見付かったら一発ですよ』
『柳生さんは相変わらずお固いの』
茶化す仁王くんを落としてやりたくなりましたが、ここは我慢です。まぁ彼なら少々落ちたところで大丈夫でしょうが。
『あ、柳生見えてきたよ!』
名前さんが声を上げたので顔を上げれば、太陽によってキラキラと光る海が見えました。ですが海と同じ側に太陽があったため、それを直視してしまったのです。前を見ても太陽の影がついてくるので、視界が狭く、上手く自転車を走行することが出来ません。フラフラになりながらも必死で進んでいるというのに、この二人と来たら、大声をあげて笑っているではありませんか。
『二人とも、本当に落としますよ』
小声でしたが、しっかりと届いたようで、笑い声はピタリと止まりました。
砂浜の端の方に自転車を止めると、波打ち際まで走る二人。裸足になって、波と戯れています。早速、笑い声をBGMに読書をしようと鞄を開けると、いきなり両手を引っ張られました。
目の前には早くも砂まみれになった二人が笑って立っていました。
『柳生、行こう』
『…海水を掛けられるのだけはごめんですよ』
笑いながら言うと、名前さんは満面の笑みで、仁王くんは目を泳がせながら再度私の腕を引っ張りました。
二人の背後に見える海と太陽の美しさに、何だか泣きそうになりました。
『仁王くん!砂を掛けるのはやめたまえ!』
『水じゃなきゃいいんじゃろっ』
『屁理屈を言わない!』
見渡す限りの桃源郷
090807