zzz | ナノ
その日は、朝からやたらと雲が多かった。
淀んだ空とテレビから流れる天気予報を交互に見て、私は自室へと折りたたみ傘を取りに行きました。
(今日の予報は曇りのち、雨。)
机の上には、3日ほど前に名前さんに借りた本が置きっぱなしになっていました。既に全て読み終えていたので、返却するため傘と共にそれを鞄の中へ丁寧にしまいました。
そして下に降り、靴を履いて母に「いってきます」と告げ、私は外へ出ました。
(今日は遅いですね)
いつもなら私が家を出ると必ず玄関先には名前さんがいるのですが、今日はまだ来ていないようです。
仕方がないので、彼女の家まで迎えに上がることにしました。紳士としては女性を迎えにゆくのは当然のことなのですが、彼女がどうしてもと言うため、いつも迎えに来て頂いているのです。
『名前なら、さっき出たわよ』
彼女の家に着き、インターホンを押すと、玄関からはお母様が出て来ました。名前さんは、と聞けば彼女はいつもの時間に出たとのこと。一言お礼を告げ、足早に元来た道を帰ります。
"擦れ違う"ということに違和感を覚えて、前へ前へ進む足を止めました。…そうです、私の家から名前さんの家までの道は一通りしかないのです。擦れ違うはずがありません。
まさか、と思い走り出しました。柄にもなく全速力で自宅前を通り過ぎたとき、玄関のドアの横で制服を着た女子が座っているのが見えました。遠目からでも分かる、それは名前さんでした。彼女も私に気付いたのか、手を振りながらこちらへと駆け寄って来ました。近付くクラクションの音にも気付かずに。
(あの時、私が名前さんの方へ行っていれば)
私の目の前で彼女は宙を舞い、地面に叩きつけられてしまった。
せめて嘘だと笑って
090805