「珍しい事もあるんスねぇ…」

扉を開けて、飛び込んできた光景に黄瀬は形の良い大きな目をしぱしぱと瞬かせた。





ことの発端は、1時間程前。全くメールをしないことに定評のある青峰から今から家に来い、という何ともまぁ簡潔で漢らしいメールが黄瀬の元に届いたことだ。
今日は休日で部活も午前で終わり、丁度仕事も無かったので、もしかしたら1on1の相手をしてくれるかも知れないと思い素早く帰り支度を整え、部室から飛び出した。後ろから笠松の呼び止める怒鳴り声が聞こえるけど、今はそれに気付かないフリをして走り続ける。きっと明日の練習メニューは倍か、それ以上になっているだろう。
それでも構わない。いつもは黄瀬が約束を取り付けて青峰が誘ってくるのは滅多にないことだから。こんな、他の人からしたら何でもないような事でも黄瀬には凄く嬉しいのだ。
急いで駅まで向かい、タイミングよく着いた電車に飛び乗る。そうして途中女の子に囲まれることなく無事青峰宅まで辿り着いた。
鍵は開いてるから勝手に入ってこいとのことで、遠慮なくお邪魔して部屋の扉を勢いよく開ける。

その部屋の先に見えたのはでかい図体を布団にくるませて眠っている青峰の姿だった。予想外の光景に少しの間、呆然としていたが我に返り、幸せそうな寝息を立てている青峰に近付く。そして気が付いた。
青峰の額に、彼とは無縁だと思っていた冷却シートが貼ってあることに。

(馬鹿は風邪引かないんじゃなかったっけ…?)

うーん、青峰っちでも熱を出すんだと感心していると下から腕をぐいっと引っ張られた。いきなりの事でバランスが崩れ、そのまま倒れこむ。危ない。このままでは青峰の上に乗っかってしまうと素早く両手で自分の体を支える。
なんか俺が青峰っち押し倒したみたいっス。
普段と逆の体勢は新鮮だと黄瀬は思った。

「青峰っち?どうしたんスか?」
「あー…腹減った」
「は?」
「朝から食ってないんだよ」
「…つまり、」
「何か作れ」

お願いではなくて命令、やはり風邪を引いても青峰は青峰だった。横柄な態度はぶれることはない。ぶーぶー文句を言ったが治ったら1on1に好きなだけ付き合ってやる、と言われれば黄瀬に断る術はないだろう。
キッチンは好きなように使っていいと言われたけど、流石に他人の家。あれこれ勝手に使用してしまうのは申し訳ないと思い、黄瀬は簡単に出来るお粥を作ることにした。料理はあまり自分でしないけれども人並みくらいには出来る。ホカホカと湯気のたつお粥を持ち青峰の元へ向かった。

「はい、出来たっスよー」

ちらりと黄瀬の方を見た青峰が何故か眉を寄せてむすっとした顔になる。そして、何か考える素振りを見せて一言。

「食わせろ」
「ええ!?」
「拒否権はなしな」

普段とは違い無邪気に笑う青峰に、黄瀬は小さく唸り渋々といった感じにベッドに腰掛ける青峰の隣に座る。元々、黄瀬は青峰のこの笑顔に弱いのだ。それを知っていてやってくるのだから質が悪い。
はぁ、と溜め息を吐いてスプーンを握る。恥ずかしさを隠すためなのか唇を尖らせて不満そうな顔を作ってはいるが、如何せん顔が真っ赤だ。それを見て青峰はくつくつ笑い、黄瀬は頬を膨らませる。

「きーせ、そんな拗ねんなよ」
「拗ねてない。はやく口開けろっス」

乱暴な物言いだが、青峰はそれが黄瀬の照れ隠しだと分かっている。気付いたのは最近だけど、それが分かってからはそんな態度をとられてもやべぇ黄瀬ちょー可愛いと思う始末である。
黄瀬の可愛いあーん、という声と若干の上目遣いを頂戴した青峰は至極満足そうに食事を終え、油断したら出そうになる鼻血に気を付けて、次はどんな事をしてもらおうかと頭を巡らすのであった。





支部に上げたやつです。同じのがあったらそれは私です。

2012/09/18

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