頭の中では言葉がもう出来上がっているのに、どうしてか声にすることが出来ない。
普段何気なく言っている筈なのに。いざ面と向かって言うとなると何故か喉に詰まってしまう。いい加減何か言わないと。呼んでおいて何も話さないんじゃ失礼すぎる。ああ、どうしよう、青峰っちが訝しげな目でこっちを見てきた。どうしようどうしよう。軽く混乱状態で発狂してしまいそうだ。

「…黄瀬?」

俯いてしまった俺の顔を覗き込んできた青峰っちの、そのきりっとした切れ目と視線がかち合う。
落ち着け、俺。

「あ、あの…!」
「うん?」
「俺、青峰っちのこと…す、」
「す?」

1on1をしている時のような表情で見詰められ、言葉が詰まる。でもそんな顔もかっこいいなぁ、なんて。俺、結構やばいかもしれない。末期じゃん。

よし、腹を括れ黄瀬涼太。

「俺、青峰っちが好きっス!」

それじゃ、と片手を上げくるりと踵を返して全速力で走り出す。言った後の青峰っちの顔とかは余裕がなくて見れなかったけど。
黄瀬ぇ!という怒鳴り声が後ろから聞こえる。ついでに物凄い勢いの足音も。
なにこれ。もしかして追いかけられてる?なんで?気持ち悪いから怒ったのかな。とりあえず今分かることは、捕まってはいけないって事だ。急いで、駅へと向かう。

「待てこら、黄瀬ぇえ!」
「うわああ、無理っスよー!」

ちらと後ろを振り返れば、鬼の形相でスピードをあげてきてる青峰っちが目に映る。やばいやばい。これ絶対捕まったら殺されるんじゃないか。
元々あっちの方が足は早いし、距離はもう狭くなってきているし、逃げ切るの無理かも。ああもう!こうなったら潔く捕まってきっぱり振られた方が楽なんじゃないか。なんかもう、面倒くさくなった。どうにでもなれ、と走るのを止め立ち止まる。その直ぐ後に腕を引っ張られ、青峰っちと向かい合わせ。だけど相手の顔を見ることは出来ず、俯いた。青峰っちに触れられている部分が、火傷したんじゃないかってくらい熱を帯びていて。
頬はいつの間に流れ出したのか涙で濡れていた。

ちょっと来い。
ぶっきらぼうに言われて手を引かれる。黙ってついて行けば先程自分が飛び出した青峰っちの家まで来ていた。
何が何だか分からなくて、全くもって思考が追い付かなくて、気が付けば青峰っちの部屋だった。そして何故だか俺は青峰っちに抱き締められている。
意味が分からない。え、なに、これ。殆ど無いに等しい脳みそで考えてみるけど、余計に混乱するばかり。
何か喋ろうと思っても、何を話せばいいか思い付かなくて、一回引っ込んだ涙がまた溢れだす。

「あー…、泣くなよ」
「うぅぅ、あ、おみ、ねっちぃ…」

止めどなく流れてくる涙を優しく指で拭ってくれて、しかも優しい手付きでぽんぽんと頭を撫でてくるもんだから、このままじゃ俺の涙は枯れるんじゃないかってくらい泣いた。青峰っちにしがみつきながら。

「落ち着いたか?」
「…はいっス」
「んじゃ、さっきの事だけどよ、あの言葉、嘘じゃねぇよな?」
「…はいっス」
「ならもっかい言え」
「え!?な、なんで!!」
「いいから早く言え」

なんスかこれ。からかってる、わけでは無さそうだし。ただの羞恥プレイじゃないっスか。
まぁ、一回言ったんだしと開き直ればすんなりとそれは口から出てきた。

「好きっス、青峰っちのこと。大好き」
「ん、俺も」
「………………は?え?」
「だから、俺も好きだっつってんの」
「うそ、だ…だって、そんな、」
「嘘じゃねぇよ。好きじゃねぇのに男に告白なんて冗談でもしねぇから」

そう言って顔を近付けてくる青峰っち。ふにっとした何かが口に押し付けられた。それが青峰っちのだってことに気付いたのは、一度離れた唇がもう一度重なった時だった。




2012/08/14

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