「だから、俺には彼女なんていないの!つか当分はいらないっス!」
「え、そうなの?涼太モテるし、てっきり女の子とっかえひっかえしてるとばかり」
「かなり失礼なこと言ってるっスよそれ!」


ごめん、と苦笑しながら言う姉ちゃんの髪が揺れる。綺麗に巻かれたその髪を見ながら、内心かなりがっかりしていた。俺、そんなふうに見られてたんスか…。確かに今までも女付き合いはあったけど、姉ちゃんに対しては割と真面目に接してたと思うんだけどなあ…。
怒った?と俺の顔を覗き込んでくる姉ちゃんに、ちょっとだけ、と返すと、姉ちゃんはごめんねと言って目の前で手を合わせた。あーくそ、こんなふうに謝られると、許さないわけにいかないのが俺の弱いところだ。


「俺の買い物に付き合ってくれたら許すっス」
「も、もちろん!というか今日そのつもりで来たんだけど!」
「だって姉ちゃんいつも自分の服選びに夢中になって迷子になるじゃないっスか」
「違うよ!涼太が置き去りになるだけだよ」


人のせいにすんな!ぺちんと額を軽く叩くと、姉ちゃんは可笑しそうに笑い声を上げた。あー、ようやく元気になってきたな。サングラスを掛け直し姉ちゃんがはぐれないよう念入りに言いつける。うんうんと笑いながら頷くこのアホな姉は果たして人の話をどこまで聞いているのだろう。
今日は変装完璧だね。そう言って俺のサングラスを指で弾く姉ちゃんは、たぶん俺の話なんか三分の一も理解してない。ということは、放っておいたら確実にはぐれる。溜息をついて、ん、と姉ちゃんに手を差し出すと、目を丸くして姉ちゃんは俺を仰ぐ。そうして嬉しそうに笑ったあと、はめていた手袋を外して俺の手を取った。わざわざ手袋外さなくてもいいのに。何だか照れ臭くなってそう言うと、いいの、と微笑む姉ちゃんが隣に並ぶ。心に満ちるくすぐったい気持ちが何だか嬉しくて、はぐれないよう姉ちゃんの指を絡めた。



***




「涼太、結構買うんだね」
「まあ一応…職業柄。ほとんど部活だって言っても着るものがないと外出れないっスからね」
「忙しいと大変だね、ゆっくり時間も取れなくて」


はい、と姉ちゃんから渡された缶コーヒーを持つと、冷えた指先にじんわりと熱が伝わる。やっぱ寒い日は缶コーヒーだよな、どっかの誰かさんみたいなお汁粉じゃなくて。
混み合ってきた大通りで、迷子にならないようにと姉ちゃんのペースに合わせて並んで歩く。ブーツのヒールで転ばないか注意しておかなければと姉ちゃんを見ると、そんな心配をされているとは露知らず、姉ちゃんは「あ、」と前方の何かを指差して声を上げた。


「見て見て涼太、あれ」
「イルミネーションっスか?」
「うん、今年から冬の夜間だけイルミネーションやるんだって。テレビで観たの」


指差された方に視線を投げると、人々が集まる大広場に立派な樹が立っていた。そしてそこを始めとし、あちこちに色とりどりの装飾がされていて、それが小さなライトだと遠目で気付く。クリスマスでもないのに、こんなでっかい樹や壁一面にイルミネーション点けるなんて凝ってんなー…。感心しながらはあ、と息を吐くと、白く染まったそれは空気へと溶けていった。まだ16時、点灯にはまだ時間があるんだな。ぼんやりそんなことを思っていると、ロマンチックだね、と姉ちゃんが隣で小さく呟いたのが聞こえた。


「そうっスか?俺にはよく分からねーっス」
「女の子は誰でも憧れるんだよ。涼太もいつか彼女ができたら一緒に来るといいよ、きっと喜ぶから」


ね。ふわりと笑って振り返る姉ちゃんに、俺は黙って目の前の大きな樹を見上げる。
彼女、か。今はとりあえず部活と仕事がうまくいっていればいい。勉強もまぁ、それなりに。あとは、姉ちゃんが今みたいに笑ってればそれでいいかな。なんて柄にもなく思ってる自分に少しだけ笑ってしまう。
どうしたの?とマフラーを巻き直しながら俺を見る姉ちゃんに、何でもないと返して髪をそっと撫でた。






(土)明日またここで
16:03








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