「アリババくん」


背、伸びたね。先を歩く背中に呟くと、彼はわたしを振り返り照れ臭そうに微笑んだ。その金色の髪が陽光に透けるのを、綺麗だなあと心の中で思う。


「そうか?あんまり変わらねーよ」

「ううん、伸びたよ。前はわたしと一緒くらいだったもの」

「そうだったっけ」


そんな昔のこと、もう忘れたよ。そう言って再び前を向いて歩き出す彼の背中に目を細める。大きくなったよ、アリババくん。君がまだ幼い頃この宮殿に来たときよりもずっと。
空を見上げると、鮮やかな青色が広がっている。そういえば、わたしがこの王宮で彼に初めて会ったのも晴れた日だった。こことは全く違う環境から城へ連れてこられた彼と仲良くなるのに、そう時間はかからなかった。最も、正統な王族である彼と身分が釣り合うはずなんてなく、隠れて逢瀬を重ねるしかなかったけれど。
太陽が眩しくて目の前に手を翳す。指の間から零れる光を愛しく感じた。彼と一緒にいる時間は、なぜか全ての景色が輝いて見える。生きている感じがするんだ。


「ねえ、アリババくん」

「ん?」

「初めて会ったときも、こんなふうに天気の良い日だったね」


そして今みたいに、綺麗なその金色の髪に目を細めたの。
アリババくんはまたわたしを振り返り、そうだっけ?とはぐらかす。くしゃりと笑う彼の笑顔はあの頃と変わってない。大好きなその笑顔を、どうかこの先も変わらずわたしへと向けてもらえたらいいのに。
少し遅れて歩くわたしに、アリババくんはふと手を差し伸べた。彼に駆け寄りその手を取ると、やっぱり前よりも大きくなった手がわたしを包み込む。ああ、またわたしの知らないアリババくんの一面が増えてしまったんだと思い、嬉しいような寂しいような気持ちになった。


「アリババくんばっかり大きくなっちゃって、何だかずるいね」

「そんなことねーよ。俺は何にも変わってない」

「…うん」


変わらないでいて。どうか君はそのままでいてください。
ねえアリババくん、わたし気づいてるんだ。アリババくんがいつかこの城から出て行ってしまうこと、その眼はもう別の場所を見ていること。アリババくんは、もうわたしの知ってるアリババくんじゃないってこと。
背丈も手の大きさも、その温もりも、みんな変わってしまった。ただ一つ変わらない笑顔も、いずれはわたしの前から消えてしまうこと。
どれだけ変わってほしくないと願っても、彼は自分が正しいと信じる道を進むでしょう。それを止める術はなく、わたしはきっとここで立ち止まっているだけ。
どうかそれまで、彼の温もりをいつも感じていられますように。離れても二度と会えなくなっても、忘れることのないようこの身に刻み込もう。その優しい笑顔が、いつも傍に感じられますよう。




文明が滅びたころに、
(また会いにくるから)





アリババくんが城を去ったのは、その三日後のこと。別れを告げることもなく彼は行ってしまった。
分かっていたはずなのに痛む心を、誰に打ち明けることもできず空を見上げた。変わらず青い空と、眩しい光が注ぐ。彼がいないこの場所で、わたしはこれからも生きていかなければならないのだ。
「アリババくん、」小さく呼んでも返ってこない声。それがどうしようもなく悲しくて、ぽたりと一つ涙が落ちた。







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