人生山あり谷ありとはよく言ったもので。
こんな何もない道端で、わたしみたいな可愛くて健気な女の子が倒れているってのに、人っ子一人、いや動物すら通らない。青々とした樹々が鬱蒼と生い茂っているこの場所に、わたしはいつの間に辿り着いたやら。というかどこだここ!自然豊かすぎでしょ!草多すぎて前が見えない!ち、ちくしょうめ!
ぐうぅ。わたしのお腹の虫たちが鳴いてる。食糧なんてものは、ここ数日間の海越えでとっくに空っぽです。水と塩だけで凌いでたら見事ダイエットに成功したけれど、何だか虚しい。ぐうぅ。


「肉…肉をくれ…」


ああ、お肉が食べたい。おいしい果物も食べたい。いや、やっぱ先に水をください。
生まれてこのかた十余年。年頃の女の子がこんな道端で行き倒れるなんて…。ぎゅるぎゅると泣いてるお腹の虫につられて、何だかわたしまで泣けてきた。父よ母よごめんなさい。わたしはこのまま誰にも看取られることなく儚く散って、「たっ…たまるかー!!「うおー!?」ぎゃー!?変なおじさんがー!」


急展開!若いパワーを振り絞って起き上がったらなんと、目の前に変な髪の長いおじさんが!おじさんじゃないからね俺おじさんじゃないからねと号泣するおじさ、(あ。)お兄さんは一体何者だ。というか、どこから現れたんだろうこのひと。
何だかきらきらした装飾品をたくさん身につけてて、とても良い出で立ちをしている。にも関わらずめそめそと泣いていて、何だかわたしが悪いことしたみたい。でも慰めるのも癪だ。


「あ、あのおじさん「お兄さんね!」……お兄さんはその、一体どこから、」

「シン!」ん?


おじさんは相当心をえぐられたのか、わたしの目の前でがっくりと項垂れている。せ、せっかく話しかけたのに…。びっくりして思わず黙り込むと、突然おじさんの後ろから緑色のカフィーヤを被ったお兄さんと赤い髪の毛のでっかいお兄さんが歩いてきた。さっきまで動物すら見なかったこんな僻地に、三人もひとが…!


「急に姿が見えなくなったと思ったら、こんな所で油を売ってたんですか!」

「いや、道端にこのお嬢さんが行き倒れてたんだよ。俺をおじさん呼ばわりしたんだ」

「(根に持ってる!)あ、あのわたし、海を越えてきたんですけど、休んでたところを助けてもらいまして」


緑のお兄さんは、おじさ…お兄さんの首根っこをむんずと捕獲したあと、わたしを怪しいものを見る目で見てきた。ひ、ひどい。でも助かったあ。この人たちにどこか街まで案内してもらおう!それでまずはご飯食べてお腹を満たさなきゃ。相変わらず騒いでるお腹の虫を抑え、ふらりと立ち上がったわたしとは裏腹に、緑色のお兄さんはしばらくジロジロとわたしを観察したあと、じっと考え込んでからようやく口を開いた。


「貴方、入国証は?」

「え、」

「入国証をお持ちですか、と聞いてるんです」


入国証って、え?ここ既に国だったの!わたし国境越えてたんだ!や、やばい。そうだとしたら入国証ないと捕まる。このお兄さんたち、何だか政府の人たちと関わりありそうな感じだし!ピンチ!


「あ、あのですね、わたし行き倒れてたもので、国境越えてたなんて気づかなくて」

「……」

「あ、あの!わたし各国を回って文化や歴史を記録する操觚者というのをやってるんです!で、いつもは国境を越える前に入国証とか在留許可とるんですけど、今回は空腹で「マスルール、捕虜しなさい」うそーん!」


ひとでなし!冷徹!くそー!
水と塩ダイエットで痩せたわたしの体は、マスなんとかさんに容易く担がれた。おまけにがっつりホールドされた。
じたばたと抵抗してたら、わたしの足からすっぽ抜けた靴が、ひとでなし男に引きずられてる魂の抜けたおじさんの頭にヒットした。やっちまった。

いや、元はと言えばこのおじさんがわたしに絡んできたから!空腹で動けないわたしを狙うとは、なんて非道な!このおじさんめ!
父よ母よごめんなさい。生まれてこのかた十余年、わたしは早くも犯罪者で捕まりました。必死の言い訳も虚しく、冷徹男このやろー…。


ていうか「どこに連れてくんですかー!!」







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