ナマエのお前への想いは、恐らく好意だろう。彼女、自分じゃ全く気が付いていないがな。何だその驚いたような顔は、良かったじゃないかジャーファル。彼女のような年頃で可愛らしい女性が現れて。お前に好意がなければ俺が相手をしてやりたいくらいだよ。ん?年の差?そんなもの愛があれば関係ないだろう。お前ももう25だ。結婚を考えてもいい頃じゃないか。そろそろ子供の一人や二人作って俺を安心させぎゃああああ



シンを黙らせ恐らく国で一番大きな樹へと縛り付けたあと、溜まっていた仕事を片付ける為に白羊塔へ重い足取りで向かう。先ほどのあまりのふざけた話に、どうにもさっきから頭痛がして響く自分の足音さえ聴くのが苦痛だった。
ナマエさんからの、好意?シンのことだ、どうせ彼女を半ば問い詰めるように聞き出したんだろう。あの子は優しいから、王であるシンを気遣い話を合わせただけに違いない。スパルトスが言いにくそうな顔をした理由も、それならば納得がいく。
第一、あの子は操觚者だ。この国の記録が終わったら、いずれはまた旅に出る。まだ若く聰明な彼女が、一国の政務官などに好意など持つわけがない。そもそもそんなことをしていては、彼女の仕事の重荷になるではないか。それに、私への好意と勘違いするなど、彼女に対してあまりにも失礼だ。


「全く…」


白羊塔の執務室の扉を開け、机に積まれた書類の山を見て溜息をつく。椅子に腰掛けその頂上に手を伸ばしたとき、ふと手元にある小さな包みに気がついた。昨日ナマエさんが差し入れてくれた菓子だ。残ってしまったのを綺麗に包んで置いていってくれたのか。
よかったら食べてください、そう言ってふわりと笑う表情を思い出す。
そう、優しい子なんだ、彼女は。だから私に好意を持っているなどと話を合わせた、きっとそれが話の真相だろう。恐らく、私を気遣って。

(ずるいです、)


そうであった方が、彼女のためではないのだろうか。


「ジャーファルさん」


小さく響いたノック音に、ふと我に返る。この声はヤムライハだ。こんなところに来るなんて珍しい、何かあったのだろうか。姿勢を正し入りなさいと扉の向こうに声をかけると、顔を覗かせたヤムライハがおどおどとした様子で私を見る。


「ヤムライハ、どうしました?」

「あの、ナマエってまだ帰ってきてません?ピスティに聞いたら、ジャーファルさんが知ってるんじゃないかって言ってたから、」

「(あのやろう)いや、私もさっき出かけたことしか…。ヤムライハに買い出しを頼まれたと言ってましたが」

「それが、あの子まだ帰ってきてなくて。まだシンドリアに来たばかりで道もよく分かってないだろうし。それにさっきドラコーンさんが、今日は雨がひどくなるだろうって…」


ヤムライハの言葉に窓の外を見れば、既に雨が降り始めて陽が見えなくなっていた。じきに辺りは暗くなるだろう。雨がひどくなるのなら、尚更。
ぐ、と無意識に手に力が入る。かさりと音をたてた菓子の包みと、あの子の笑った顔が再び浮かんだ。道が分からないくせに、雨が降ると分かっていたくせに、あの子は優しいから。


「……ナマエさんを迎えに行ってきます」

「で、でもジャーファルさん」

「ヤムライハ。貴方は城で待っていてください、サナさんと入れ違いにならないように。私も一通り探して、見当たらないようなら一度城に戻ります」



すみません、謝るヤムライハに笑いかけ部屋を後にする。
急がないと暗くなる。探すのにも時間がかかってしまうだろう。城を出て空を見上げれば、先程よりも黒さを増した雲が広がっていた。

あの子はどこにいるのだろう。不安がってはいないだろうか。どこかで雨宿りできているだろうか。急に胸がざわつき足早に歩き出す。彼女の身に何があったわけでもないのに、
早く見つけて、手を取ってあげたい。濡れているであろう彼女を連れて帰って、安心させてあげたい。私は何をこんなに焦っているんだ。不安なのは自分の方じゃないか。彼女が泣いていないか、それが心配で。


ジャーファルさん、


照れたように名前を呼ぶ声が浮かぶ。早く、早く見つけて名前を呼んで、笑ってほしい。
そう思うのは、彼女が好意を持っているという曖昧な確信のせいだろうか。それとも、







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