ナマエさんがシンとピスティに絡まれていると聞いたのは、昼下がりの講堂でのことだった。
どうも姿が見えないと思ったら、ナマエさんに付きまとって何をしているんだあの人たちは。スパルトスがどうも言いにくそうに口を割らない様子からすると、恐らくまたろくでもない話をしているんだろう。握っていた筆がぼき、と音をたてたのに見兼ねて、中庭にいましたよ、とスパルトスがぽつりと呟いた。盲点だった。バツの悪そうなスパルトスに礼を言って椅子から立ち上がり、文官たちに仕事の指示をしてから執務室を後にする。シンとピスティ、あの二人は放っておいたら何をしでかすか分からない。



***




「シン!ピスティ!」


中庭の噴水に腰掛け、ナマエさんを真ん中に挟んだ二人は私の声に焦った様子で振り返った。仕事をさぼって何をしているんだ。頭にきてずかずかと近付くと、シンが慌てて間に入り腕をぶんぶん振って突如否定をし始めた。


「誤解だジャーファル!俺は何もしていない!」

「いやアンタ仕事さぼってるじゃないですか!」

「休憩してただけだ!」

「何時間休憩してんだ!」


今日はもうお酒なし!シンにそう言い放ってピスティに向かおうとしたら、シンは心底ショックを受けたように顔を青ざめさせ、めそめそと弁解をし始めた。全く懲りていない。舌打ちをしてじろりと睨んだら、言い訳も通用しないと悟ったのか小さく呻きながら項垂れた。仕事をしないのが悪い、自業自得だ。
面倒事はさっさと片付けてしまおうとピスティを振り返ると、ナマエさんにしがみつきながら奴はへらりと誤魔化すように笑っている。その首根を掴んでナマエさんから剥がせば、抵抗するようにジタバタと暴れ始めた。


「ジャーファルさん誤解ですよー!私はただナマエと話してただけだもんー!」

「あなたは今日は市井の警務でしょうピスティ!仕事をしなさい!」

「だ、だってナマエが…!」


ナマエさんのせいにしない!そう嗜めるとピスティはちら、とナマエさんを見てから諦めたように静まった。すっかり魂の抜けたシンにそのままピスティを押し付けてから、一つ溜息をついてナマエさんに視線を投げると、彼女は突然顔を背けた。何かあったのだろうか。


「ナマエさん?」

「ひぇっ。わ、わたしちょっと街を探索してきます!ヤムさんに買い出し頼まれてたんだった!」

「あ、ちょっと!」


ナマエさんの顔を覗き込んだ瞬間、小さく悲鳴を上げて私から逃れようとする彼女。機嫌を損ねてしまったのかと思い手を取ろうとしたら、ぺちんと振り払われてナマエさんは勢いよく走り去ってしまった。
…何か、悪いことをしてしまっただろうか。訳も分からず呆然としていると、あーあ、ジャーファルさんのせいだーとピスティが意地悪く言うから、私は思わず振り返る。


「何で私のせいなんですか!」

「え、いやぁその、ねぇシン王さま」

「お、俺に振るな!」


ピスティの投げかけに慌てるシンをじろりと睨めば、言葉を詰まらせて視線を右往左往させている。この様子、何か知っているに違いない。ナマエさんに無礼なことをしてしまったからには、しっかりと謝罪しなければ。
シンの襟首をむんずと掴んで問い詰める。知っていることがあれば全て吐け、さもなくばお酒は当面の間禁止だと半ば脅すと、シンはもごもごと口籠ったあとにようやくぽつりぽつりと話し始めた。


「いや、その…ナマエがな、お前に好意を持っているんじゃないかとな…」

「は?」







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