鈴の音

うとうと、足元から染み入るように暖かくなる感覚が心地よくて、うっかりまどろんでしまいそうになる。今日はあれから数えて三度目のクリスマスだった。思えばいろいろなことがあった。いちから数えると、ちょっと気が遠くなってしまいそうだ。

『〜駅、〜駅です。』

独特の声にはっとする。足を一歩外へ出せば、ぶるりと身が震え、吐き出した息も白色を帯びた。目線を少し上に上げると毎朝毎晩目にする赤色の頭が何両か前のところに見える。声をかけていいものなのだろうか狼狽えている間に改札を抜けた。ここから数分も歩けば我が家だ。けれど、彼はわきへそれる。なぜだろう?一瞬だけ疑問が頭をよぎったが、よく考えなくても今日はクリスマスなのだ。彼にも予定のひとつやふたつあるのだろうと、少女は深く考えることもなく帰路を進んでいった。

 * * *

「ただいま、宇美姉さん。」

その声が聞こえたのは宇美が帰宅してから、十数分後のことだった。こんなにもはやく帰ってくるとは思わなかった。少しはやあしで玄関まで駆け寄る。

「神威、用事があったんじゃないの?」

用事?呼ばれた神威の方は言われたままに繰り返す。

「寄り道してたから。」
「ああ。」

それにクリスマスだし、そんな言葉は飲み込んで続きを待った。

「…これ。」

紙でできた箱が狭そうに詰めこまれているのが、提げられたレジ袋から透けて見える。リビングの机まで持っていき広げてみたら、中にはケーキがみっつ。

「………ばんごはん、すぐに用意するね?」

宇美は軽快な音を立てながらいつものように、当たり前に料理をはじめていく。ひと段落したところで彼女の手によって机の上に、花の模様があしらわれた綺麗な皿が置かれた。それに続いて神威は箱からひとつ、ケーキを取り出す。一番シンプルな見た目をしたものだ。それから、静かに鈴の音が鳴った。その間、二人は一言も言葉を交わさなかった。腕を揮った料理が机に並ぶ。七面鳥は量が多いからと手羽先を選んだらしいが、それも意味をなさないくらいいっぱい。パスタにグラタン、おまけに神威の買ってきたケーキにシャンメリー。

「遅くなってごめん。…おかえり。」

今日はあれから数えて三度目のクリスマスだった。いちから数えると、ちょっと気が遠くなってしまいそうなくらい。本当にいろいろなことがあった。かわってしまったことも多いけれど二人の間にはそうでないこともたくさんある。例えば、

「姉さんも、おかえり。」

もう一度、先にろうそくをつけたケーキの方を向いてから二人は手をあわせた。



かむうみちゃん!
真昼ちゃんはぴばでした!


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