IFかむうみ
2013/10/27 22:49

「なに、これ」

宇美は目を見開いた。気の抜けた笑い方をしながら、震えるスカートのプリーツをぎゅうっと握りしめる。無機質なフィールドには慣れきっていて、寒くなんかないはずなのに。このぐるぐるとした、血のめぐる音はなんなのか。みっともない、だとか、もし今の自分を見たらあの人はそんなことを言ってくれるだろうか。

……人生の中で一番、大切な人の近くにいれた。そんな十年前に、今、二十四の影山宇美はいる。

「ねえ、なに、これ」

だが、まず最初に感じたのは漠然とした違和感だった。コートの上をぐるりと見回す。次に、確信。1、2、3、4、5、6、7、8、9、指折り、幼なじみのいるひとつ前で目と指が止まる。本来、自分がいたはずの9番には、見なれた赤い髪があったから。

「なんで神威があそこにいるの」

それだけじゃない。しばらく歩けば本来、義弟、神威がいたはずの場所に、もう一人の自分の姿を見つけた。トレーナー、マネージャー、制服姿の自分。本当に何なのだろう、ぐるぐる、頭までもが沸騰しそうになる。なにあれ、宇美はみたびつぶやいた。あの人の近くで、学んできたであろうプレイ、揺れる赤髪に映える深緑のユニフォーム、9の文字をそっと視界のはしへ追いやった。

とちゅう


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