開幕を告げるリール
みのりside.
「ねぇ、リボーン。お願いがあるんだけど……」
私がそう言うと、彼――リボーンは飲みかけのエスプレッソの入っているコップをテーブルの上に置いた。そして何を言うわけでもなく、視線で話の続きを促した。
「店長になってみる気はない?」
「……は?」
予想どおりの反応に、くすりと笑みがこぼれた。
* * *
「え、それで先生は承諾したの?」
「承諾してくれたよー。条件付きだけどね」
苦笑交じりで言うと、やっぱりねと納得顔で李庵は頷いた。
リボーンは自分に利益のない頼みごとは引き受けたりしない。そのことを知っている李庵は、最初は驚いていたけど、条件付きと言ったところで納得した。
ちなみに李庵の言う「先生」というのはリボーンのこと。なにか理由があって呼んでいるみたいだけど、詳しくは知らない。
「先生らしいわね。それで、条件ってなんなの?」
「えっと、“珈琲豆だけはオレが厳選して選らんだのを使え”だって」
「……ほんっと、先生らしいわ」
エスプレッソコーヒー好きとして有名なリボーンは、市販のを買って飲むよりも、自分で珈琲豆を選ぶところ始める。
リボーンの淹れるエスプレッソコーヒーはとても美味しく、彼が条件を出してきた時、私は願ってもないチャンスだと思った。紅茶の茶葉なら人並み以上の知識を持っているけど、珈琲豆となると素人同然。これからのことを考えると、リボーンの出した条件は私にとってまったく悪いことじゃない。
「そういえば、先生の姿が見当たらないけど、どこかに出かけているの?」
「荷造りをしに、教え子の沢田くん? の家に行ったよ」
「荷造り?」
「珈琲豆を選びに、イタリアに行くんだって」
「今からイタリアに!?」
私としてはもっと遅くてもいいのに、リボーン曰く「思い立ったら即行動」とのことらしい。
行動が早いのに越したことはないけど、いくらなんでも早すぎだと思う。そんなことを思っていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「お嬢様、自家用機の手配が整いました」
「ありがとう」
お礼を言うと、執事の方は恭しく頭を下げて部屋を出て行った。
自家用機の手配ができたのなら、他の準備も終わったってことだよね?
「よし。じゃあ行きますか」
「どこかに行くの?」
「イタリア」
「……は?」
またも予想どおりの反応ありがとう。
さてと、リボーンにした話を、李庵にもしないとね。
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