Thorn of revenge | ナノ
まるで黒猫エレヴァート

李庵side.

 それは、ある日の午後のことだった。
 客足も落ち着いてきた頃合いを見計らって、「-CAFE SUITE-」の店長であるリボーン(私は先生と呼んでいる)に呼ばれて、スタッフルームのドアを開ける。
 先生は待ちわびていたのか、ドアを開けると同時にキャスター付きの椅子を回転させて、私の方に向き直ったその顔は不機嫌そのものだった。

「話ってなんなの?」
「やっと来たか。おい李庵、先月の光熱費の支払い額が違かったぞ」
「……え、それって本当なの?」

 このお店の経理を担当しているのは私だった。本当はみのりや先生の仕事だと思うんだけど、理数系が得意な分野だったこともあって、任されるようになった。
 お店の開店から今まで特に何も問題はなかった。それなのに、私が仕事でミスをするなんて珍しい。
 驚いている私を余所に、先生はパソコンの方に向き直ると、カタカタとキーボードを打ち始めた。私は先生の背後に立つと、先生の頭上に自分の顎を乗せ、パソコンを覗いた。

「……おい、そんなに死にてえのか」

 先生はスーツの胸元に手を入れた。間違いなく、愛用の銃を握っているわね。

「まさか。冗談でもお断りだわ」

 両手を挙げて、先生の横に移動をした。

「あ、確かに違うわね」

 パソコンに映し出されている先月の光熱費を暗算してみると、私が払った金額と本来払う金額が一致しなかった。

「私が計算ミスなんて珍しい。明日は雨かしら」
「お前の場合は槍だろ」
「あら、どういう意味かしら?」
「そのままの意味だ」

 ニヤリと笑っている先生を見て、今すぐかっ消してやりたい気分になり、私の右手が淡く光り出した。

「店の中で憤怒の炎を使ってみろ。みのりが黙っちゃいねえぞ。それより光熱費の支払いの件で、ここらを牛耳ってる奴から話があるそうだ」
「先生頑張ってね☆」
「お前が話を聞け」
「どうして私が聞かないといけないのよ」

 ここは店長である、先生の仕事でしょう。どうして従業員である私がしないといけないのよ。ただでさえ、普段は仕事をしていないんだから、こういう時に先生が仕事しないでどうするのよ。

「どっかの誰かさんが計算ミスしたせいだろ? ここは本人が責任を取るべきじゃないのか?」
「部下の失敗は上司が片付けるものでしょ?」

 私と先生の間に、バチバチと火花が散る。しばらく睨みあった後、折れたのは私の方だった。だって先生の殺気ってば半端ないんですもの。さすが世界最強のヒットマンを自負しているだけのことはあるわね。

「わかったわよ。それで、何時頃に来るの?」
「俺が知るわけねえだろ」

 しれっと言いのけた先生に、本気で殺意が湧いた。
 一発でいい。一発だけでいいから、このすかしたモミアゲ野郎を殴りたい!

「あいつは気まぐれだからな。まあ、遅くても夕方前には来るだろ」
「……え? 牛耳ってる人って先生の知り合いなの?」
「当たり前だろ」

 なら先生が話をすればいいじゃない! 知り合いならコネとかでなんとかなるでしょ!? 本当にどうして私がしないといけないのよ! こんなことなら折れなきゃ良かったわ!
 それになにが当たり前なのよ! 30文字以内で説明してごらんなさいよ!!

「じゃあ、頼んだからな」

 鼻で笑った先生は、軽い足取りでスタッフルームを出て行った。

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