ラグの中でコーヒーを、C
みのりside.
「李庵、注文入ったよー」
カウンター内にいる李庵に声を掛けると、カップを拭いていた手を止めた。
四人分の注文が書いてある紙を渡すと、ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべた。
「みのりはこっちをお願いね。私は残りを作るから」
「え? でも、これは李庵の方が得意でしょ?」
「-CAFE SUITE-」の料理は、みんなで分担して作ることになっている。同じメニューでも、その時に応じて作る人は変わる。
李庵が私に任せたのは、沢田くんが頼んだサンドイッチセットだった。だけど、私が作るより李庵が作る方が絶対に美味しい。
お店をオープンする前に、李庵が作ったサンドイッチを食べたことがあるんだけど、まさに絶品だった。私が同じ食材を作って、同じ調味料を使っても、李庵の味を出すことはできなかった。特にテクニックがいる料理じゃないのに、どうしてこんなに味の違いがでるのか不思議に思ったなあ……。
「みのりってば、分かってないわねえ」
「え? 分かってないって?」
「これを注文したの、あの茶髪の男の子でしょ?」
え、どうしてこれが沢田くんの注文だって分かったの!?
「あの男の子、みのりちゃんに恋しましたね」
「えっ!?」
「リカもそう思う?」
「見ていて、そうなのかなと思いました」
「で、でも沢田くんにはハルちゃんがいるじゃん」
「「……はぁ」」
「なんで二人でため息吐いちゃうの!?」
「おい」
少し低めの声に振り返ると、そこには獄寺くんがいた。
眉間にしわを寄せているのはいつものことだって聞いていたけど、初めて会った人から見たら、怒っているようにしか見えない。
小さい頃に会った時の彼は、もう少し可愛かったんだけどなあ……。
「どうかしたの?」
「……なんでてめえがここにいやがるんだ」
「なんでって言われても、私はここで働いてるから…」
「みのり、下手に嘘つくとかえって面倒よ」
「バレないと思ってたんだけどなあ……。久しぶりだね、隼人くん」
隼人くん、と呼び方を直すと、眉間のしわが幾分か和らいだ気がした。
最後に会ったのはずいぶんと前だったから、私のことを覚えてくれたのが嬉しくて、自然と顔が緩んでしまう。
私の母と隼人くんのご両親が知り合いで、私たちは小さい頃から何度か会っていて、顔見知りみたいな感じ。
「最初は名前が違って気付かなかったぜ」
「だから私も言わなくていいかなって思ってたの。ご両親とビアンキは元気?」
「姉貴は元気にしてるぜ」
「ちょっと、みのりには挨拶して、私にはなしなの?」
「……なんでてめえもいるんだ」
「あら、見て分からない? みのりのボディーガードよ」
「見て分かるかよ!」
李庵は元フリーの殺し屋で、彼女のお父さんはあのボンゴレファミリーの九代目とあって、裏の世界ではちょっと有名人。隼人くんにも昔会ったことがあるらしく、仲良しとまではいかないみたいだけど、知人以上友達未満な感じなのかな?
「それにしても、隼人くん大きくなったね」
ここで会ったのもなにかの縁だからこれからも会うことになる、ということで話を中断して、私と李庵は仕事に、隼人くんはハルちゃんたちの所に戻った。私と李庵は、厨房でも隼人くんの小さい頃の話で盛り上がっていたけどね。
「よし! これで四人の注文は全部作り終わったね」
「そうね。どっちが運ぶ?」
「じゃあ私が、」
「遅れてごめんねっ!」
料理が出来上がり、私と李庵のどちらが席に運ぼうか話していた時、厨房に息を切らした澄未ちゃんが現れた。
急いでバイトの制服に着替えたのか、リボンは少し曲がっていて、髪も少しだけ乱れていた。
「走って来たの?」
「もう講義が終わった瞬間にダッシュだよ〜! なにかすることある?」
「なら、これを七番テーブルに運んでくれる?」
李庵は料理を乗せたトレイを澄未ちゃんに手渡した。
「七番テーブルね、了解〜!」
「よろしくね」
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