ラグの中でコーヒーを、
ツナside.
まだ寒さも去らぬ二月のある日のこと。
身も凍るような寒さでも、カップルの前では無力なのか、休日の外はカップルで溢れかえっていた。
この並盛町の住宅街にも、一組のカップルがいた。
二人仲良く手を繋ぎ、お互いを見合って微笑んだ。更にはピンクと青の色違いの服を着て――
「はいストップ。青じゃなくて、オレンジの服を着てるんだけど。第一、ペアルックなんかしてない」
「ちょっとツナさん! ナレーションの邪魔しちゃいけませんよ!」
「てか、どうして俺がハルとデートしてる設定になってるの? 散歩に行こうとした俺を、外で待ち伏せていたハルに捕まって、どこかに連れて行かれてるのが現状なんだけど」
「……こうでもしないと、ツナさんはハルとデートしてくれないじゃないですかっ」
ハルはスカートの裾をぎゅっと握りしめた。その目には、うっすらと涙が滲んでいた。
さすがに言い過ぎたかと思いながらも、ハルにかける言葉が見つからず、ため息を吐きながら自分の頭をガシガシと掻いた。
「……どこに行くつもりなんだ?」
「、はひっ? 一緒に行ってくれるんですか?」
「今日だけだからな」
「ツナさん大好きです!」
服の袖でぐしぐしと涙を拭うと、両腕を大きく広げて、俺に抱きつこうとした。だけどそこは超直感でさらりと避ける。避けられると思ってもいなかったハルは、勢いよくブロック塀にぶつかった。
「ど、どうして避けるんですか!」
「直感」
「ちっ」
躊躇いなく舌打ちをしたハルに、俺のこめかみにピキッと青筋が浮く。
女の涙は信じるもんじゃないって思ってたけど、うっかり油断した。ハルの演技に騙されたのもだけど、その演技に気付くことができなかった自分に腹が立つ。
「十代目?」
「ツナに三浦じゃねえか」
聞きなれた声に振り返ると、そこにいたのは獄寺くんと山本の二人だった。
休日なのにもかかわらず、二人が一緒にいるってことは、俺ん家に遊びに来ようとしてたのかな?
「アホ女ッ! てめえ、なんで十代目と一緒にいやがんだ!」
「ハルはアホじゃないですぅ! 今日はこれからツナさんとデートなので邪魔しないでください!」
「じゅ、十代目とデートだと……!?」
獄寺くん、頼むから気付いて。俺がハルとデートすることなんて一生無いから。
ただハルが勝手に俺を連れ回してるだけだから、お願いだからそこに気付こうか。
それと、ハルの口から「デート」という単語が出て、獄寺くんがショック受けてるように見えるのはなんでだろう。
「これから、二人でどこに行くんだ?」
天然の山本のことだから、気を使って話題を変えてくれたのかは分からないけど、今のナイス! 思わずガッツポーズしそうになったよ。
「よくぞ聞いてくれました! これから行く場所は、ハルの幼馴染みがアルバイトをしているカフェなんです!」
「アホ女の幼馴染み……そいつも可哀想だな」
「ちょっとどういう意味ですか!?」
やっと収まったかと思ってのに……!
本当に誰でもいいから二人を黙らせてお願いだから。
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