ひたすら五線譜に思いついたメロディーを書きこんでいく。後ろではハヤトが大人しく那月から貰ったピヨちゃんのぬいぐるみを抱えてテレビを見ていた。
あの指切りをした約束した日から運悪く仕事が入り、全くといって良いほどHAYATOの相手をしなくなった。それでもトキヤは「置いてくれるだけ有り難いです」と言うので悪い気はしない。

「……………」

テレビの音は言葉が聞こえる程度の小さい音量だがハヤトは画面をじぃっ、と見つめている。俺はまた五線譜に目を移して手を動かした。かれこれ2時間こうしているが、これだ、と思えるメロディが浮かばない。いつもならすぐ決まるはずなのに。理由はわかっている、テーマがラブソングだから。

「あーーくそ…苦手なんだよこういうの…」

椅子から立ち上がり背伸びをする。切なくて儚い恋とか分かるわけねぇだろ、とやけくそになりながらハヤトが座るソファーに歩み寄った。

「さっちゃんおしごとおわった…?」
「いや……」
「つかれちゃった?」
「まぁそんな感じだ…」

ハヤトは俺の座る面積を作るように遠慮がちにソファーの端に身を寄せた。その隣にぼふんと座るとその反動でハヤトが浮いた。

「うお、わりぃ」

その言葉に反してハヤトは途端に大きな瞳を輝かせる。いやな予感がしてならない。

「た、楽しい!さっちゃんもういっかい…」
「やらねぇからな」

だろうと思った。確かに身体が浮くなんてこいつにしたら楽しいかもしれないがソファーに思い切り乗っかる俺の気持ちにもなってみろ。おかしいやつだろ絶対。

「さっちゃんおねがーい」
「いやだ」
「いっかいでいいからっ」

この通り!と手を合わせて俺に拝むハヤト。このままだと駄々をこねそうなので俺はハヤトを抱き寄せて肩に乗せることにした。こっちの方が行動的にまともだろう。
ひょいっと軽いからだを無言で引き寄せる。「ひゃっ!?」と声をあげるハヤトを気にせず肩に乗せる。

「これで我慢しろ」
「うわぁ…!たかい!すごい!」

頭上でギャンギャン騒ぐハヤトを驚かせてやろうとリビングを軽く歩いてやると俺の髪の毛を遠慮なく掴み喜んでいるようだった。
相手をしてやれなかったのが自分でも気になっていたらしい。喜ぶハヤトを見て俺も気が楽になっていくような気がした。楽譜ばかり見て切羽詰まっていたのかもしれない。

「トキヤこんなことしてくれないよ」
「しそうな柄じゃないしな。俺もだが」
「あ、でもころんだときはおんぶならしてくれたことある!」
「へぇ……あっ、ハヤトちょっと降りろ」
「え?うわぁあっ」

ハヤトの両脇を掴み軽くソファーに着々させて俺は五線譜のある机に素早く戻った。良いメロディーが思いついたのだ。すらすらとペンを滑らせて俺は文句なしの曲をそのまま仕上げたのだった。

それからゆっくり1日を過ごしいつものようにトキヤが迎えにくる。去り際にハヤトがらしくもなくもじもじとし始める。

「さっちゃんぼくね…あの、ね」
「なんだよ早く言え」
「お、おとまりっしたい!」
「…………」
「だめ…?」
「…考えておく」

案外この人もハヤト気に入ってるなと思ったトキヤだった。


〜20120312



かたぐるま!
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -