ハヤトが来た後の一週間は朝から晩まで仕事漬けの毎日だった。人がちゃんと作曲してるのに何度もリテイク出しやがってあのスポンサー…普段だったら数回で終わる打ち合わせも二桁になるほどだった。とりあえず昨日やっと合格を貰らったので今日はあまりやることはなさそうだ。

「ふぅ…」

いつも通りテレビをつけて、コーヒーを飲む。この時が一番落ち着く。

ピンポーン

コーヒーを一口飲もうとするとインターホンがなった。誰だ俺を邪魔するタコは。

ピンポーンピンポンピンポンピンポーン

「だぁああ!うるせぇな!今出る!」

若干キレながらドアノブを乱暴に開けるとハヤトを肩車して満面の笑みを浮かべた那月がいた。「そんなにインターホン押しちゃだめですよぉ」とハヤトを叱る那月。なんだこの状態は。朝から少し頭が痛くなる。つか、那月は仕事で大阪にいるって言ってなかったか?

「さっちゃんおはようございます!」
「あ、あぁ…おはよう」
「さっちゃんおはやっほー!」
「は…?」

ハヤトがさらりと俺のあだ名を口にする。

「那月…お前」
「はい!ハヤトくんがさっちゃんの名前知りたがっていたので教えちゃいました!」
「砂月でいいだろうが…」

さっちゃんって呼ぶのは那月だけだったからなんだか変な気持ちになる。まぁガキにも覚えやすいのもあるかもな。これが那月じゃなくて誰かが教えたんだったらぶっ飛ばしているところだった。

「つかなんで那月がハヤトと一緒に…」
「それより廊下寒いです、さっちゃんのミルクティが飲みたいなぁ」
「ぼくも!さっちゃんのミルクティのみたい!あまいやつ!」
「分かったから騒ぐな…」

人の話を聞かない2人を仕方なく部屋に招きいれる。那月は部屋に入るなりハヤトを下ろしてソファに座った。ハヤトもいつこんなに慣れたのか那月の横に座る。俺はキッチンでいそいそとミルクティを作っているとリビングから楽しそうな声が聞こえる。無理やり押しはいったうえに俺は放置か。数分で出来た暖かいミルクティニ杯を手に持ってリビングに向かうと2人の会話が段々鮮明に聞こえてきて思わず耳を傾けた。

「それでねぇっ、こうえんでブランコおしてくれたんだぁ」
「さっちゃんって本当に優しいですよねぇ」
「うんうん!」
「それとすごくかっこいいし…」

なんだこの俺自慢大会は。一瞬にして顔に熱が集まるのが分かる。こぼしそうになるミルクティをぐっと掴んで止めていた足を進めた。

「あ、さっちゃん…あれぇ?お顔が真っ赤ですよぉ?」
「……誰のせいだ…」
「聞いてたんですか?」
「嫌でも聞こえんだよ…」

出来るだけ顔を見せないようにして那月とハヤトにマグカップを渡す。

「あ!ピヨちゃんのコップだにゃあ!」
「ふふ、可愛いでしょう?」
「あちぃから冷ましてから飲めよ」

うん!と眩しい笑顔で小さい口をふーふーするハヤトに思わず頬が緩んだ。それを目撃していた那月がにこにこしてきて俺はまた顔を赤くする。

「それで、なんで那月がこいつといるんだよ」
「トキヤ君から預かったんです」
「あいつまた…」
「早めに仕事が終わっていたし何よりハヤトくんが可愛すぎて預かっちゃいました」

トキヤが何故ハヤトを親から預かっているのか分からないが多分相当困っているのだろう。ぷは、と飲み終わるハヤトの声が聞こえてきた。

「さっちゃんおトイレいきたいっ」
「そこの廊下の右側にある」
「はぁいっ」

相変わらず忙しいやつだ。丁度那月も飲み終わったマグカップを片付けて俺もソファに座る。那月はまた俺の顔をニコニコと見てくるのだが心当たりがない俺は首を傾げた。

「ふふふ」
「…なんだよ」
「さっちゃん楽しそう」
「何も楽しくねぇよ」
「ハヤトくんといると表情が柔らかい感じがします」

那月がまたふふ、と笑う。鏡で自分の表情を見るわけでもないから気づかなかったが、那月が言うからそうなのかもしれない。

「ハヤトくんがさっちゃんに会いたいって言ったから連れてきたんですよ」
「ハヤトが?」
「でもお仕事かもって言ったんですけど聞かなくて…」
「まぁ休みだったんだけどな」

何やら想像以上にハヤトに好かれてしまったらしい。何をそんなに気に入られたのか全く分からないが嫌な気はしなかった。トイレから帰ってきたハヤトががばっと俺に抱きついてくる。

「馬鹿、危ねぇだろ」

背中にへばりついたハヤトを引っ剥がして膝に乗せてやるとハヤトはきゃっきゃと騒ぐ。隣から那月のケータイが鳴った。

「もしもし…はい…、分かりました」

通話ボタンを切って那月はソファを離れる。大方仕事が入ってマネージャーに呼ばれたんだろう。

「なっちゃんどこ行っちゃうの?」
「お仕事ですよ〜」
「頑張れよ、那月」
「はぁい!行ってきますねっ」
「なっちゃん…」

那月は手を振りながら部屋から出て行った。これでハヤトと2人だけになるのは、二回目だ。ハヤトは俯いてシュンとしていた。


〜20120302
長くなったので次に続きます




なっちゃんも!
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