かりかりと部屋にペンの走る音がする。テレビではくだらないワイドショーをやっていて、たいして興味は無いがそれを見ながら俺はコーヒーを飲んでいた。ペンの音とはソファーにくつろぐ俺の目の前で絵を黙々と描いているハヤトのことである。適当に裏側が白いチラシとペンを渡してから二時間が経過していた。
(本当に手間がかかんねぇ)
こんな俺がつまらないと言いたくなる程ハヤトは静かな子供だった。ギャーギャーわめくガキは大嫌いだが、放っておいても気遣うこともないし、何より静かだということだ。だけどハヤトはどこか遠慮がちで自分を取り繕っているようだった。俺はてっきり公園で遊びたいとか言われるかと思っていたため(行くかどうか気分次第だが)なんだか変わったガキだなぁと違和感を覚えていた。
「なぁ…」
「?」
「そんな絵ばっか描いて楽しいのか?」
「た、楽しいよ」
「外で遊びたいとか思わねぇの」
「ぼ…僕は…」
「まぁお前がそれでいいんなら良いんだけどな」
「おりこうさんにしないと…」
おりこうさんにねぇ…と頬杖をつきながらコーヒーを一口飲めばハヤトはまた絵を描き始める。ちら、とその絵を見ると青い空に男の子がひとり花を持っていて緑の草原にいるような感じの絵だった。隣には公園の遊具らしきシーソーやすべり台らしきものが並んでいる。
(なんだよ、やっぱり外遊びたいんじゃないのかこいつ)
時計を見れば丁度昼過ぎで、どうせどこにも出掛ける予定は無い。別に公園なんて近くにあるし長い時間いるわけでも無いし。何よりこいつが充分我慢してるのは分かったから少しはいいかと考えた俺は飲み干したコーヒーカップをキッチンに置いて軽い身支度をすることにした。
「どこか行っちゃうの?」
「あぁ」
「い、いってらっしゃい」
「ばーか。お前も行くんだよ」
「えっ」
玄関まで手招きをするとハヤトは半信半疑で近寄ってくる。
「どこに行くの?」
「公園」
「…!こうえんっ、いく!」
「おう、早く靴履け」
「はぁい!」
ハヤトは公園と言った矢先今までの反応とは打って変わって目を輝けた。さっきの遠慮がちな性格はどこへ行ったのか。予想的中か。きっとトキヤのことだから厳しくおりこうにしていろとでも言われたのだろう。それに合わせて面倒見てくれる人間が居なくて余り物を押し付けられたような俺の気持ちも考えていたに違いない。どうやらその不安を見事に祓えたようで、心なしか嬉しい自分がいた。
(らしくねぇよなぁ…)
「歩いてすぐ着くからな」
「うん!楽しみだにゃあ!」
「にゃ………?」
〜20120222
らしくないよなぁ