ピヨちゃんの目覚ましが耳に響く。慣れた手つきでそれを止めてむくりと起き上がる。横にはハヤトがいるはず。どうせまだ寝ているんだろうと布団を捲るとそこには

「んあ…?」

ハヤトが居なかった。

「あ!おはやっほーさっちゃん!おねぼうさんだにゃまったく〜!」

寝ぼけまなこで目をこすりながらリビングに向かうとハヤトがソファーに座りテレビを見ていた。ここはお前の家か、と突っ込みたくなるのを抑えて俺もハヤトの横に座る。ガキって意外に起きるの早いんだな。

「さっちゃんのねがおかっこよくてぼくドキドキしちゃったにゃ〜」

キャッ、と顔を両手で覆ってわざとらしく照れるハヤトに朝からイラッときたがそこはまぁ受け流して置く。てかハヤト寝癖ひどすぎだろ。サ〇ヤ人みたいになってんぞ。

「腹減ったな。なんか食うか」
「サンドイッチたべたい!」
「食パンあったけな…」

ソファーから立ち上がりキッチンに向かって冷蔵庫を開ける。食パンはおろか、大体食品がない。朝ご飯とか言っている場合ではない。ふと那月に頼むという手が浮かんだが即却下した。いや、俺は食べれるぞ?ハヤトの口には、その、合わないかもしれないからな。だから俺は別に食べれるって!愛の力でな。

「…ハヤト」
「はいはーい!なーに?」
「朝ご飯食べに行くぞ」
「やったぁ!お出かけ!」

サンドイッチに執念があると思いきやあっさりとキャッキャッと騒ぐハヤトに「早く支度しろ」と声を掛けて自分も支度を始める。近くにあるコンビニでもいいか…歩いて五分もないしな。適当に身支度をして数分もしないうちにハヤトと一緒にコンビニへ出かけた。

カゴの中におにぎりやパスタをほいほいと入れていく。ハヤトはお菓子コーナーに行ったきりで朝飯を選ぶ気がないらしい。サンドイッチが食べたいと言っていたしこれでいいだろう。レジに並ぶと後ろからハヤトが何かを持ってやってきた。

「さっちゃん、あの…ね」
「…なんだよ」
「あ、えーと…」

その手に持っている物を買って欲しいならそう言えばいいものの、変なところで手間がかかるなコイツ。ハヤトの手中には最近那月がお気に入りだと言うピヨちゃんチップスが握りしめられていた。おまけにカードもついているまさに子供にぴったりの商品である。

「欲しいんだろ?」
「う…うん!」
「早く渡せ」

気まずそうにそろりとハヤトが差し出したピヨちゃんチップスをとって会計中のかごに入れる。嬉しいオーラがきらきらとコンビニを舞う。店員は仲のいい親子だとでも言いたげに微笑ましく俺たちを見てくる。おい、俺は子供がいるような年齢じゃねえぞ。

「ありがとうございましたー」

俺の後をてちてちとついてくるハヤトに手を降る店員。それに嬉しそうに手を振りかえすハヤトにげんこつを食らわせて俺達はコンビニを出た。

「もういたいよさっちゃん」
「お前がへらへらしてるからだろ。前見ないと転ぶぞ」
「はぁ〜い」
「本当に分かってんのか」

そうハヤトに言うと携帯から着信音が鳴った。ポケットから出すとディスプレイには一ノ瀬トキヤの文字。確かハヤトを預かった時にアドレスを交換したんだっけな。すっかり忘れていたがまさかこいつからメールがくるなんて思っても見なかった。

『今日仕事が早めに終わるので、もし良ければ私の部屋に来てきてくれませんか。話があります。仕事が忙しければ無理しないでください。』

なんで呼び出しくらってんだよ俺。一歩引いたような言い方が実にトキヤらしい。仕事なら昨日のうちにかなり進んだから問題はないだろう。返信をしたところ夜に来てくれとのことだった。
ハヤトを連れて部屋に戻り、やっと朝食が始まった。テーブルに広げられた数々のコンビニ食に目を輝かせるご機嫌なハヤトに自然と笑みが浮かぶ。

「あ!たまごさんどがある〜!」
「好きだったのか、卵」
「だいすきだよぉ!たまごさんどいがいなにもいらないにゃ〜!」
「そりゃいいすぎだろ」

ぱちょん、と小さな手のひらを豪快に合わせて「いっただきまーす」と卵サンドを頬張るハヤトの可愛さといったら…おっといけない。顔に出るところだった。こんなにも喜ばれて俺は卵サンドに深く感謝した。俺も買ってきたパスタを温めて食べ始める。

「むぐ、んぐ、あのねひゃっちゃん」
「口に物を入れて喋るな」
「んぐ………あのね!」

数回噛んでごくりと飲み込み楽しそうに話し始めるハヤト。

「ぼくね、さっちゃんのおうちにきてからごはんひとりでたべることなくなったんだぁ」

無邪気な笑顔で放つそれに、何故か言葉が詰まった。いつもなら「へぇ」なんて軽く返せる相槌も上手く打てない。悪びれもなく言ったその言葉にハヤトがいままでどれだけ寂しい思いをしてきたのかと、ふいに考えた。確か来たばかりは遠慮ばかりしていて言いたいこともろくに言えない手のかからないガキだった。トキヤも仕事なのだ、一人で食べていたのか。俺だってハヤトが来るまではほぼ毎日一人だった。会話なんてする相手もいなければする気もなかった。

「でもねっ、さっちゃんのおかげでまいにちすごくたのしいんだよ」

そうか、お互い、報われていたのかもしれない。どれだけこいつが俺に影響を与えたのか、今更になって知らされた気分だ。

「お前って、すごいんだな」
「?」

この日の朝食は普段より暖かく感じた。

「あーー!!!」
「うるせぇよ静かにしろ」
「ピヨちゃんチップスのカードが…」
「それがどうした」
「れ…れ、レアだにゃあああああああ」
「そりゃよかったな」
「みてみて!きらきらしてる!すごい!」
「わかったわかった」

〜20120409
いきなり空気がどよん
シリアスになりきれないのがこのシリーズ



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