「さぁ、はじまりますよ〜」

三人仲良くハヤトを囲むようにソファーに座って那月の手によってレコーダーが起動する。一体何が始まるんだか。大方ディズニーの映画かアニメだろう。ハヤトは目をきらきらさせて今か今かと画面を見ている。

『キャーーーー!』

画面に映像が映った途端、何万もの女の悲鳴がテレビから聞こえた。いや、悲鳴より歓声といったところか。そしてステージに映る六人の影。六種類の派手なスポットライトに照らされたのは紛れもなくST☆RISHである。

「今日は一緒に見ようと思って持ってきたんですよ〜」

那月のその言葉に俺とハヤトは顔を見合わせた。言わなくても分かる、「ハヤトが忘れて見れなかったはずのDVDを那月が持ってきた」と。

「なっちゃんさっすがだにゃあ〜!」
「那月…さすが俺の天使…!」

すかさず那月をハヤトと共に包容。「どうしたんですか2人とも?僕もぎゅーっ」とよくわからないコミュニケーションをとったと同時にST☆RISHのライブが始まった。もはやお決まりと言ったあの歌が流れる。

「どきどきでこわれそうせんぱーせんらっ」

途端にソファーに座っていた筈のハヤトが消えてテレビの前で曲に合わせて踊り始めた。歌詞はなんだかあやふやだが。

「わぁ…!ハヤト君踊れるんですね〜嬉しいなぁ。すごく上手ですよ〜」
「トキヤとれんしゅうしたんだにゃっ」

トキヤ仕込みなのかは知らないが振り付けは完璧であった。というか、可愛すぎる。俺も踊れるなんて絶対言わないけど。誇らしげに踊るハヤトを見て那月は終始手拍子をして喜んでいた。

「あ、次は皆のソロメドレーですよ〜」

ハヤトは満足と言いたげにやけにいい顔をして再びソファーに戻ってきた。今が相当楽しいのだろう。ライブはソロが終わり終盤へ。

『今日は皆さんにサプライズでーす!』

テレビの中の那月の言葉に俺は首を傾げた。この台詞に聞き覚えがあるのだ。デジャヴか?いいや違う。那月を見れば俺を見てニコニコ。まさか、これは。

『今日は僕の双子の弟のさっちゃんが来ているんですよ〜!ほら、さっちゃん!上がって上がって!』

嘘だろ…これって俺があの時ライブのステージに立たされた公演のやつじゃねぇか!

「那月!」
「ふふふ、特別に焼いて貰ったんですよ〜」
「わー!さっちゃんがうつってる〜!」
「やめろ!今すぐ消せ!」
「消しませーん」

那月にリモコンを取られハヤトを間に攻防戦。だがしかし那月相手に本気になれるわけもなく。

「はぁぁ…くそ…」
「ぼくさっちゃんがうたってるところみたいっ」
「ほら、ハヤト君がそう言ってるんだからいいでしょ?さっちゃん」
「好きにしろ…」

仕方なくソファーに戻って大人しくすることにした。俺は元々こういう柄じゃないから恥ずかしい。物凄く恥ずかしい。だー!始まった!!

「さっちゃんおうたうまいにゃあ!すごいかっこいい!」
「でしょう?なのに作曲家なんてもったいないですよねぇ」
「…………」

俺の唯一の持ち歌である曲を何故か打ち合わせもなく流されて、でも那月には迷惑をかけたくなかったから歌っただけだというのに。観客は双子ということに驚いて俺にもファンが増えたんだっけな。

「こんなのは二度とごめんだ」

まぁ久しぶりに思いっきり歌えて気持ちよかったけど。ライブは一時間ちょっとで終了した。ハヤトは寝るだろうと思っていたが終始目を輝かせてライブに魅入っていて楽しそうだった。だが夜ももう遅い、ハヤトを早く寝かせなければ。

「あれ、ハヤト君いつまでいるんですか?」
「きょうはおとまりなんだにゃ!」
「わぁっ、うらやましいです!」
「おい那月、ハヤト寝かせたいからまた明日にでも来い」
「時間が空いてたらそうしますね。では、おやすみなさい」
「ばいばいにゃー!」

そう言って那月は部屋に戻っていった。さて俺の仕事は、取りあえずトキヤに言われたのは風呂と歯磨き、それとこいつに頼まれた絵本か。

「ハヤト、風呂入ってこい」
「さっちゃんといっしょにはいりたい…」
「却下」
「やだぁやだぁ!おねがいだよぉ…」

うるうると瞳に涙をためて懇願しだすハヤトに息が詰まる。こんなの反則だ。わざとやっているなら犯罪だ。確かにこんなガキを1人で風呂に行かせるのは危ない、か。幼児溺死なんてニュースよくあるもんな。

「…分かった」
「やったぁ!あひるさん持ってくるね!」
「パジャマ忘れんなよ」

風呂に大中小のあひるがぷかぷかと浮かぶ。図体がデカい自分がこの風呂におさまりきるのだろうかと不安だったがハヤトが小さかったためなんとか入った。お湯は一瞬にして無くなったがまぁいい。ハヤトの柔らかい髪の毛をわしゃわしゃと洗い流す。まるで自分に子供が出来たようで複雑な気持ちになったがハヤトの楽しそうな笑顔でどうでもよくなった。風呂から上がった途端ハヤトは身体を拭くと真っ裸でリビングに駆け出していった。

「こらまて!」
「きゃーー!」

下だけ履いてすぐさまハヤトを追いかける。勿論パジャマも忘れずに。風邪引くだろうが!なんだこの完璧なるお泊まりテンションは!俺は逃げるハヤトをとっつかまえて無理やりパジャマを着させることに成功した。

「もうつまんないにゃ」
「ぶー垂れてんじゃねぇぞクソガキ」
「ぶー」

その後二人揃って歯磨きをしてベッドに入った。シングルベッドだがハヤトはちっこい為ここでもなんとか寝れそうである。

「さっちゃんきょうたのしかったね」
「お前だけだろ」
「そうかにゃあ?」
「…もう寝ろ」
「やだ!まだお話したい!あ〜!えほんわすれてた!」
「あ…」

そういえば絵本を読む約束していたんだった。このまま忘れて寝てしまえばいいものをどうでもいいところで記憶力発揮させやがって。ハヤトは足早に絵本を持ってきて再びベッドに潜り込んだ。無理矢理持たされ、目で「読んで!」と訴えられる。

「これ読んだら寝ろよ」
「うん!」

素直に頷くハヤトを横目にピヨちゃんの絵本を開く。那月にやったら喜びそうなイラストに微笑ましくなるのを抑えて、棒読みだが文を読んだ。

「……はい、おしまいだ。っておい…」

一体いつからなのか、ハヤトはすーすーと寝息をたてて眠っていた。ったく一人で読んでた自分が恥ずかしいじゃねぇか。絵本を脇にある棚に置くと俺もベッドに入る。風邪を引かないように肩まで布団を被せて自然に向かい合うような体制になった。幼いハヤトの顔が可愛くてつい頬を触れた。

「んぅ……」

寝苦しそうにするハヤトに即手を引っ込めた。ところがその手を掴まれ抱き枕のように抱きしめられる。すぐさま離そうとするがなかなかの力でうまく離すことが出来ない。

「こらはなせ」
「…さ…ちゃん…」
「!」

ふいに名前を呼ばれ動きが止まった。夢の中でも俺といるんだろうか、こんな不器用な大人と夢の中まで一緒に?

「大体こんな大人に懐くほうがおかしいんだよ…」

そう小さく呟く。自分でも分かってしまうほどぶっきらぼうなのにハヤトは俺の何が気に入ったのか。顔に被っている前髪をぱさりとかき分けてやる。正直嬉しかったのだ、こんな俺でも他人に好かれるんだと。喜んでもらえているのかと、そう考えると悪くないと思える自分がいた。

「……寝るか」

こんなことを今考えても意味がない。大体ガキ相手に深く考えてもな。目の前のすやすや眠るハヤトを落ちないように抱き寄せてまぶたを閉じた。


〜20120403
長い



おやすみなさい
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