「てへ」と人をおちょくったようなハヤトの顔を呆れながらポカッと叩く。決して口には出さないが俺はすごく見たかったのだ。絶対那月は天使で天使だし天使だったはずだ。
「きかいのなかにいれっぱなしでおいてきちゃったにゃ」
悪びれる素振りもなくさらりというハヤトにますます怒りがこみあげる。機械というのは多分DVDレコーダーのことだろう。大人げないと自分を落ち着かせながら確認すればそこには空のDVDのパッケージが。無言で蓋を閉じてハヤトのリュックに押し込む。仕方ない、仕事はいつも通りのペースで進めてしまおう。DVDのことも忘れて作曲に専念するか。ふいにハヤトを見下ろすと俺はぎょっ、と驚いてしまった。
「お、まえ」
「………〜〜っ」
今にも泣きそうな顔、いやすでに手遅れか。ハヤトは大きな瞳に今にも頬を滴り落ちそうなほど涙を浮かべていた。その瞬間、
「うわあああん!ごめんなさあああい」
びえんびえんと泣きわめき始めた。その変声期前の甲高い声は鼓膜に響く響く。あまりの声に怒るよりも戸惑いが隠せない。というかどうして泣いてるんだ。
「おい…」
「うええええええ…っ!」
「とりあえず落ちつけって」
涙でぐちゃぐちゃの顔を手で包むとハヤトは少し大人しくなったものの一触即発といったところである。
「ひっく…っ、うえぇっ…」
「どうしたんだよ」
「さっちゃんたのしみにっ、してたのかなぁってぇえっ」
どうやらガキながら俺の気持ちを察していたらしい。というかそんなことに責任感じてるのかこの馬鹿は。ハヤトって泣くんだな、そりゃこの歳でしっかりしすぎて忘れていたがまだまだ子供なのだ。そんなハヤトの一面を見れて内心嬉しくもある俺は小さい頭をぽんぽんと不器用ながらに触れた。
「あれ…?さっちゃんおこってないの…?」
「DVD忘れただけで怒る大人がどこにいるんだよ、ったく焦ったじゃねぇかよ…」
「ピヨちゃんのほんよんでくれる…?」
「あー読む読む」
「わぁ…!さっちゃんだーいすき!」
がばりと抱きついてくる身体を受け止めてそのまま倒れ込んだ。
「いてて…、今から仕事だからな、大人しくしてろよ」
「うん!ぼくイイコにしてるよお!」
「よし」
すっかり泣き止んだハヤトにひと安心して俺は仕事に取りかかろうと机に向かおうとするとインターホンが軽快になった。
〜20120329
つづく
そろそろ終わりにしようか迷い中
なみだとはやと