<※砂月は学園の生徒、薫は医療生徒


砂月さんは良く分からない人だ。無口でいつも仏頂面で何を考えてるのかさえ掴めない。赤の他人だったそれで終わればいい、だけど僕は砂月さんの恋人。付き合って長くはないけどそれなりに一緒にいるのに砂月さんだけ僕の弱みを握っていつも主導権を握ってばかり。

「はぁー……翔ちゃん僕どうしたらいいかなぁ」
「砂月は俺にもさっぱり分からねぇからな…」

那月さんが留守の寮に翔ちゃんと二人きり、僕は悩みを吐き出していた。砂月さんと同じ学校だから結構知ってると思ったんだけどな。翔ちゃんは帽子のつばを弄って頭を悩ませる。

「つーか那月に聞いたほうが早いだろ?」
「那月さんに?」
「あいつ普段あんなんだけど仮にも砂月の兄だからな」

確かに那月さんが砂月さんを知る一番の人物だとは百も承知だ。だけどあの人とまともに会話が出来た覚えがない。会うなり可愛いと抱きしめられ翔ちゃんは被害に遭わないように見てるだけだから果たして那月さんと会話できるのだろうか。でも砂月さんに少しだけでも近づきたい僕の答えは決まっていた。

「分かった、那月さんが帰ってくるまで待ってみるよ!」

そう大声で決意したら僕の張り切りぶりに驚いたのか翔は目を丸くしていた。近所のコンビニに行っただけだからもうすぐ帰ってくるらしいので僕は大人しく待つことにした。

「お前よく砂月となんか付き合えるな…」
「砂月さんはいい人だよ?……たぶん」
「多分って…」

そんな会話をしていたら数分で那月さんはコンビニの袋を大量に抱えて帰ってきた。僕はいつもの抱擁を覚悟して身構えたけどその衝撃は一向に来ない。

「あれ〜薫君来ていたんですね〜」
「え…?」
「相変わらず可愛いです!ぎゅ〜ってしたいんですけど残念ながら両手が塞がっていて…」

心なしか涙腺が緩みそうな那月さんを見て僕は無意識に駆け寄り自分から抱きついていた。今から那月さんに聞くんだから不機嫌にさせちゃ駄目だという警報が頭の中で鳴ったからである。

「わぁ…!薫くんからなんて!かーわいいっ」
「むぐっ、なつき、さ…くるしっ」

余程嬉しかったのか那月さんは荷物をどさっと置いて僕をいつものすごい力で抱き返した。珍しく翔ちゃんが助けてくれたけど次は翔ちゃんが被害にあっていた。

「あー那月!薫がお前に聞きたいことがあるんだってよ!だからはなせえええ」

那月さんは翔を抱きしめながら頭に電球のマークを出して僕の話を聞いてくれるとのことだった。テーブルに向かい合って砂月さんのことを全て話すと那月さんはしばらくクスクスと笑った。

「ふふふっ」
「那月お前ちゃんと考えてやれよ?」

翔ちゃんは呆れながらそう言う。

「考えていますよぉ〜」
「砂月さんって掴みどころが無くて…」
「さっちゃんはギャップに弱いんですよ」
「ギャップ…?」

はい!と最高の笑みで頷く那月さん。ギャップとは具体的にどうしたら砂月さんに通じるのだろう。大胆なことをやったところで冷めた目で見られそうで怖い。悶々と黙って考え込む僕を見て翔はポカッと頭を叩く。

「なーに難しい顔してんだよ」
「うぅ…ギャップって…どうすればいいですか?」
「さっちゃんは薫くんが思ってるほど難しい人ではないですよ〜。ただクールにしているだけで本当は単純で照れ屋さんなだけなんです」

単純で照れ屋なんて僕が知っている砂月さんとはあまりにもかけ離れていて想像もつかない。でも那月さんが言うんだから真実と受け取ってもいいんだと思う。自信がついたわけではないけど僕は砂月さんに会いに行くことにした。

「さっちゃんって薫くんが可愛くて仕方ないから素直になれないだけなんですけどね」

去り際にそんな言葉が聞こえたような気がしたけど気にしないで廊下の奧にある砂月さんの部屋を目指した。ノックをするとすぐ砂月さんは出てきた。作曲中だったのか眼鏡をかけていて片手にペンを持っている。眼鏡をかけているのを数回しか見たことがないから新鮮で思わずときめいてしまう。

「…あの……」
「入るのか?入んねぇのか?」
「は、入りますっ」

いつものようにぶっきらぼうに招き入れられる。幸い砂月さんは一人部屋の為気にせずお邪魔することが出来るのが嬉しい。入るなり黙ってココアを作ってくれるのはもはやお約束で。

「ほらよ」
「…ありがとうございます」

ココアを渡されてふと那月さんの言葉を思い出す。「ギャップ」という単語が頭の中をぐるぐる廻ってカップを握る力が思わず強まる。どうしたらいい。砂月さんが驚いてしまうような行動なんて。

「どうしたんだよお前」
「えっ、あ……いや」
「さっきから様子おかしいぞ」

貴方のせいです、なんて言えるわけもなくうなだれる僕を不審そうに見つめる砂月さん。そんな視線が恥ずかしくて二人分の重みで沈んだソファーの端っこに身を寄せる。それでも砂月さんは見つめてくるなりどんどん距離を縮めてきてついには整った顔が目の前に来た。

「さささささ砂月さんっ」
「ん」
「ふ、ぅっ…んンッ」

硬直気味の僕の身体を溶かすように長いキスが降ってくる。それはあまりにも優しいもので途端に身体中の力が抜けた。ゆっくりと離される唇にくらくらする頭。やっぱりそうだ、砂月さんにドキドキさせられてばかりでそれに流されてしまうのがいつものこと。なんの為に来たんだ僕!これじゃいつものままじゃないか!

「砂月、さん…」
「あ?いったいどうし」
「ど、どりゃあ!」

迫る砂月さんの肩を勢いよく力任せに押し倒した。その反動で僕は砂月さんの上にのしかかるような体制になる。突然のことに目を丸くする砂月さんを見て勢い余ってキスをする。

「ん、んっふ…ん」
「…っ」

これは砂月さんも驚いたに違いない。自分からキスなんてしたことがないし押し倒すなんて大胆なこと今までならしなかったはずだ。自分が受けたダメージも大きい気がするけど気にしないことにする。ぷは、と口を離すと砂月さんが小さく呟いた。

「…へたくそ」
「えっ」

思いもよらなかった発言に地味にショックを受ける僕。大きい手が僕の頭を優しく包んで砂月さんの胸に乗せられる。あの、あったかいんですけど。顔を見ようと頭を上げると「見んな」と言われて胸板に顔を押し付けられる。

「砂月さん…?あの…」

そのまま名前を呼んでも反応無し。もしかして怒っちゃった?いつもの僕じゃないから引かれちゃった?それでもお互いくっついているままだから嫌ではないのかな。

「えいっ」

どうしても顔が見たくて強引に頭を上げるとそこには耳まで真っ赤になった砂月さんがいた。

「だから見んなって言っただろうが…」
「わ、まっか…だ」

砂月さんが照れている。その反応は嬉しかったけれど見ている僕まで恥ずかしくなってしまう。顔に熱が集中するのが分かった。馬乗りになったままお互い顔を赤くするってどんな状況なんだろう。少なくとも今の僕には想像出来ない。



「誰に教わったんだよ全く…」
「那月さんと翔ちゃんに相談したら、ギャップが大事って、言われて」
「……………」


〜20120321
ギャップ萌えさっちゃん