<「にゃぁ…さっちゃぁん…」

先ほどからベッドでにゃあにゃあうるさいのは万年平和なHAYATO。馬鹿は風邪をひかない、というのはまっぴら嘘らしい。しかもまだ微熱だったらいいものを38度7分あるもんだから体温計を見た時は頭を抱えた。同時に今日は休日で良かったと感謝した。

「病人は黙って寝てろ」
「うぅぅ…あたまいたい…くすり…」
「さっき飲んだばっかだろうが」
「さっちゃん冷えぴた…かえてぇ」

言われるがまま冷蔵庫を開けて冷えピタを一枚手に取る。透明の膜をゴミ箱に捨ててそれをHAYATOの目の前にちらつかせてやった。目は気のせいなのか少し焦点が合っていない、どうやら本格的にダウンしているようだ。

「…おい」

声をかけてやっても反応がない。本当にやべぇんじゃねぇのか。HAYATOの隣に腰を下ろして頬をつついてやるとはっ、としたように俺を見た。若干涙目でとろけているような瞳がこれまたそそる。

「う、あ……?」
「何ぼーっとしてんだ。冷えピタ持ってきたぞ」
「ありがとぉ…おでこに貼ってくださいにゃあ…」

既に乾いてからからになった冷えピタをべろりと剥がして新しいやつを乱暴に貼ってやっるとHAYATOからとんでもない声がした。

「ひぁあっ!」
「!?、てめっ、何変な声出してんだ!」
「だってさっちゃんがぁ…いきなりっ、はるからぁ…っ」

不覚にも興奮してしまった自分を情けなく思いながら病人相手に怒鳴り散らすのも気が引けて、必死に自分を静める。これ以上こいつの世話をしていたら手を出さない保証なんてどこにも無い。少し冷えピタに感謝をする。

「…さっちゃん」
「んだよ」
「早く歌いたいなぁ…寝てるのつまらないよ」
「その前に風邪を治してからな」

うん、と少し苦しげに返事をするHAYATOに性欲なんてとっくに失せてしまった。普段うるさいやつが元気無いとこんなにも寂しいなんて死んでも言わない、絶対に。汗ばんで頬にくっついた髪をよけてやるとふいにその手を取られてまた頬にふにっとくっつけられた。俺はそのまま頬を手のひらで優しく包んでやる。今日の俺はなんだかんだ甘やかしすぎてる気がする。まぁいつもは結局こいつのペースに乗ってしまうのだが。嫌なら嫌と言えばいいのに、実際は嫌では無くて本気で拒否出来ないのがなんだか悔しい。

「さっちゃんの手冷たくて気持ちいい…」
「……寒くないか?」
「お布団こんなに重ねてたら寒くないよ」

俺は風邪なんて滅多に引かないのでどうすればいいか分からず、とりあえず暖かくするというのが頭をよぎり今の状態である。ちなみに冷えピタは那月に貰った。

「あ、やっぱり」
「なんだ、やっぱ寒いのか」
「ぶー、人肌が恋しいにゃあ…」
「……………」
「なぁんて冗談だよぉ」

熱が移ったか否か、俺は立ち上がりHAYATOの布団の中へと入る。ベッドに足をかけるとHAYATOは「え!さ、さっちゃん!?」と驚いているようだった。言われたことを素直に聞き入れる俺はこいつから見たら相当気味が悪いのだろう。

「冗談だって、言った、のにっ」
「ん〜」
「さっちゃん、耳、噛まないでっ」

少し悪戯を仕掛けてやれば頭をぺしぺしと叩かれた。これぐらい反撃出来れば元気なほうと思いつつ不機嫌になって膨れているHAYATOを見る。

「お前の場合人肌恋しいのはいつもだろ」
「ふぉぉ…さっちゃんあったかい…」
「聞いてんのか」

すっかりまったりモードになるHAYATO。本当に手の掛かるデカいガキのようだといつも思う。HAYATOは腕をぐるりと俺の背中に回してさらに密着してくる。さっき失ったはずの理性がむくむくと膨れているのが嫌でも分かるのでしょうがない。「やめろ」と払いのけようとすると「さっちゃんから入ってきたんでしょぉ」とごもっともなことを返され黙ってしまう。

「さっちゃん今日は優しいね」
「そうかよ、悪かったな」
「うぅん、さっちゃんはいつも優しいにゃぁ…」
「つか、早く寝ろよ」
「はぁい…」

数回頭を撫でてやるとHAYATOの目がどんどん細くなっていって、一分もしないうちに寝息を立て始めた。俺も次第にうとうとしてしまい、結局二人仲良く夕方まで眠ってしまったわけだ。