text | ナノ



金曜日、とにかく家で帰ってのんびりしたいと、会社の飲み会も合コンの誘いも何もかも断った。仕事も少しあったけど、来週に回しても遅くないものばかりだから全て途中で投げてきた。
だってせっかくの何もない夜。録り溜めていたドラマをみながら好きなお酒とお菓子でだらだらするのが至福じゃない?

足早に家に帰り、その勢いのまま1週間分の家事の山に手をかける。部屋に散らばった服を洗濯機につっこみ、山になりかけている食器を洗い、散らばったゴミをかたっぱしから片付ける。
どうも次の日仕事があると、家事にまで手が回らないのよね。子どもの世話をしながら完璧に仕事してる人って本当に尊敬する。

とにかく気がすむまで片付けまくり、ふと時計をみると22時を回っていた。
ま、明日休みだし予定いれなかったし。飲みながらドラマみる時間はまだまだたっぷりかる。この時間に何か食べるのはちょっと気がひけるけど、でも1週間頑張ったし、今日ぐらいはいいかなと近くのコンビニで好きなものをたくさん仕入れることに決めた。

少し肌寒い中、何を買おうか考えながら外に出たところでぎょっとした。

人が、倒れている。
え、なに、とパニックになる前に気がついた
真選組の制服だ、てか土方じゃん。
怪我でもしてるのかと焦って駆け寄った。

「土方!?どした………うわ、酒くさっ!」

近づいてみれば倒れているんじゃなくて寝ていることに気がついた。
なんで人のアパート前で酔っ払ってんだ。
土方に問いかけるも眠りが深いのか返事がない。諦めて別の情報源を探そうと携帯を取り出し、すぐに沖田くんの番号を鳴らす。
8コール目でようやく出た。

「もしもし沖田くん!?」
「なんでぃなまえさん、もう寝て…」
「土方が制服のまま外で寝落ちてんだけど!これ、どーいう状況!?」
「あー、なまえさんが回収してくれんなら助かりまさァ。そのまま殺しちゃって下せェ」
「馬鹿なこといってないで。これ、なに?」
「とっつァんに連れてかれてそのざまです」
「とっつァんって警察のトップじゃなかった!?なんでこんなことなってんの??」
「さァ詳しくは。とにかくたくさん飲まされたことは確かですねィ」
「まだこんな時間だよ?こんなんなる!?」
「土方のヤローは弱いですからね」

俺は眠いんで、あとは頼まァ……とあくびとともに切れ、無機質な音が鳴り響く。
警察が酔いつぶれているっていったいどーなの、と怒鳴ってやりたいがぶつける先がない。酔いつぶれている人たちを無事に家に帰してあげる役目が警察なんじゃないの、大江戸警察24時でみたよ。
それにしても今時小学生でさえ起きてるこの時間に眠いからって回収してくれない沖田くんもどうかと思うし、そもそも22時なんて飲んでる人間にしては早い時間にこんな状態になる土方もなんなんだ。しかも人の家の前で。


なにはともあれ問題は目の前の男だ。
私が連れて帰る義理はないが、放っておいて何かあったら寝覚めが悪い。
でも、さすがに酔いつぶれた大の大人を1人で抱えて部屋までいくことはできない。部屋は二階だから階段も登らなきゃいけない。
深い眠りに落ちている土方の顔をぺちぺち叩いた。

「土方ぁーもしもーし起きてー」
「………ん、…………」
「ほら。歩くよー」
「っ……むり……」
「こんなとこで寝たら風邪引くだけだからね、行くよー」

うーんと唸りながら身体を起こす土方の右肩に身体を滑り込ませる。


「土方ーーあるいて。」
「ん………、気持ち悪ぃ………」
「ちょ、あんた今吐かないでよ!?トイレまで我慢して!!」

どうにかこうにか宥めすかして歩かせ部屋までたどり着いた。さっきあんなに軽やかに出てきた場所がこんなに遠かったとは。
気持ち悪そうな土方をすばやくトイレに押し込み、水を取りに台所へ向かう。
ああ、私の華麗なる金曜がパァだ。

トイレに戻ろうとすると、のっそりと土方が部屋に入ってきた。少し吐けただろうか。さっきよりは顔色が良さそうだ。

「すこしだせた??」
「……なんでなまえいんだ……」
「はぁ!?こっちが聞きたいわ。あんたなんであそこで倒れて」
「ちょっと口ゆすぐ……」

人の話も聞かず台所へ向かう土方に渋々コップを渡す。
ゆすぎ終わる土方を待って、ペットボトルを渡した。さんきゅ、と受け取ったは良いものの、そのままふらふらと歩きベッドに倒れこむものだから少し叫んだ。

「ちょっとそのまま寝ないでよ、汚い!」
「無理、もう立ってらんねえ……」
「とりあえず上脱いで、砂とかすごいよ」
「………ん」
「や、手あげるな。自分で脱げ」
「……んん」
「はあ………はい、ばんざーーい」

皮肉をこめてわざと子ども扱いしてやってるのに、言われるがままにゆっくりと動く土方から、着ているものを少しずつ取る。ジャケットとベストは少し転がしながら脱がし、スカーフはゆっくりと引っ張った。少し楽になったらしく、気持ち良さげに呼吸をしている。まあ楽になったのならよかった。

「少し休んだらシャワー浴びなよね、酒とかタバコとか色々匂いすごいよ」

キャバクラにでも連れていかれていたのか、女物の香水の匂いもする。香りがうつるほどべたべたされたわけだ。へーそうですか。
少しイラっとしたからスカーフを投げつけてみるも、もうすでに気持ちのいい寝息を立てていてぶつけ甲斐がない。
今日はもうめんどくさいし、コンビニは諦めて、もうシャワーを浴びてしまおう。こいつはこのまま寝続けそーだし、ベッドが占領されてるなら朝までドラマを観る日にしちゃおう。冷蔵庫の中につまめるものぐらいは残ってるし、お酒はないけどまあいっか。

土方がいるからシャワー浴びるのもどうかと思ったけど、深い眠りに落ちてるみたいだから大丈夫そうだ。そもそも自意識過剰だったかもしれない。土方と私はただの飲み友達でそんな関係ではないのだから。

シャワーを浴びて戻ると、土方が上半身を起こしていた。
起きたのかしら。


「起きた?シャワー浴びれそう?」
「………これどんな状況だ」
「ええ??」
「俺なんでお前の家にいんの」
「え、そこから??」
「お持ち帰りでもされた………」

タオルを思いっきり投げつけると、変な声をあげてベッドに倒れこんだ。
タオルで済んだことに感謝してほしい。土方に感謝はされど、変な推測をされる筋合いはない。

「なんかわかんないけど家の前で倒れてたのを助けたの」
「まじか」
「まじだ。なぜうちの前かは自分に聞け」
「わかんね…つーかまだぐらぐらする…」
「沖田くんも相当飲まされたんじゃって言ってた」
「娘の八つ当たりみてーだったからな…」

ペットボトルを渡して水を飲ませる。
素直に従う土方の喉辺りが苦しそうで、ワイシャツのボタンを2つ外した。

「タバコの匂いベッドにうつる、あびてきて」
「浴びても着替えがないからいい…」
「心配しないでもあるよ」
「……んであるんだよ、彼氏?」
「いないよ、元彼の」
「元彼の取っとくなんて未練がましいな」
「それほんっと、土方にだけは言われたくない」

軽く肩を小突くとごもっともだとくつくつ笑っている。
つられて笑いながらベッドに腰掛けると、手をゆっくり掴まれた。かと思えば、そのままぐいっと引っ張られ、バランスを失ったわたしはそのまま土方の上に倒れこむ。

「ちょ、ひじかた、なにす…」
「なまえいい匂いする」
「シャワーあびたから」
「俺まだ酔ってる」
「?知ってる、だから避け……ちょっ、ん」

まだ熱い土方の顔が、首筋に近寄って、そのまま首に噛み付かれた。そのまま耳の方へつつつと進む舌が、とても近いところで聞こえる土方の息が、熱い。

「ちょ、ひじか、やめ……」
「むり、スイッチ入れたのお前」

スイッチってどれよと噛み付く前に、唇に到達される。言葉をいっきに飲み込まれ、かわりに押し付けられたのは柔らかな唇。何度も執拗に啄ばまれ、うまく息ができない。逃げようにも土方の手が後頭部を支えていてどうにも動けない。酔っているくせになんでこんなときだけ力強いのと考えるだけで精一杯だ。唇の間から洩れ出る吐息がやけに色っぽく、このまま流されてしまいそうになる。

「ん、ひじ、はァ……っやあ……」
「……なまえやばいな」
「なんな、の、いきなり……」
「お前エロい」
「ふざけんな」
「本気だけど
「……。ねぇ確認していい」
「ん?」
「あたしとあんたって、飲み友達だよね?」


くちびるが触れるか触れないかの距離。お互いの息がかかり、かなりくすぐったい。土方の目をまっすぐみて、それ以上でもそれ以下でもなかったよね?と訊ねる。
挑むような目で見つめ返され、思わず目をそらしたくなった。

「俺は、それ以上になってもいいけど」
「それは酔っ払いの戯言…?」
「前からそのつもりだった」
「それ信じてわたし後悔しない?」
「自分に聞いてみろよ」


どっちにしても後悔するな、と思う。
どちらにしても何かを失う。チャンスか、平穏かの差だけ。


「朝起きて覚えてなかったらぶっとばすからね」
「そうなったら思い出させてくれよ」
「……どうやって」
「なまえに任せる」

くるりと身体を反転させられ、ベッドに寝かされた。顔をあげれば土方がいる。さっきまで酔っ払っていたくせに、眼をぎらぎらさせて私をみている。
いつも冷静なくせに、私をみて舌なめずりをしている土方にぞくぞくした。好きも嫌いも確認しないまま、ちょっと流されてしまうのも土方とならいいかもと、緊張をごまかすためにごくりと唾を飲み込んだ。



その扉をこじあけた/20170927


thanks:Bathtub