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※学パロ保険医



目を、開けた。
広がっていてたのは天井。この天井には見覚えがない。しかし鼻の奥をつんとつくこの薬品の匂いがこの場所の正解を教えてくれていた。
よっと身体を起こすとベッドのきしむ音が響き、カーテンの向こうから「起きたか」と声がした。返事をすればシャーッとカーテンが開いた。
ほら、やっぱりここは保健室。

「調子は、大丈夫か」
「はい、おかげさまで……というかなぜここにいるのか皆目見当つかないんですが」
「走ってる最中ぶっ倒れたらしーぜ?貧血だな、生理か?」
「………先生、もっとオブラートに包むとか何とか」
「あァ?いいだろ別に」

それとも恥ずかしいのか、とにたりと笑って水をくれる高杉先生から、いえいえと急いでコップを受け取った。

実際恥ずかしいに決まっているじゃないか。高杉先生は保健室の先生だから別にいいんだけど、先生である前に男じゃん。うら若い女子高生に若い男の人が生理?なんて
普通聞かないでしょ、デリカシーなさすぎるんじゃないですか

心の中でぶつぶつと文句を言うものの、声に出すことは止めた。
普段保健室というものを使わないだけに高杉先生と生でしゃべったのは今日が初めてで、だからこそ得体の知れない高杉先生に何か言うのは危険というものだ。

先生はちらりと時計を仰いだ。

「あと少しで授業終わっから、も少し休んでけ」
「あ、はい」
「あと病院行って処方してもらってこい。目ェみる限り相当な貧血だ。鉄剤飲んだほうがいい」
「わかりました」
「それと…ここに運んできた奴、来島だっけか、何度も様子見に来てすごく心配してたぜ。あとで顔出してやれ」

思わず吹き出しそうになった。
また子ちゃん何度もきたのって私を心配したんじゃなくて、先生に会いに来たんだろうから。
あとで私をダシにして会えて良かったねと詰ってやろうかなあ

吹き出しはしなかったが、肩で笑ってしまった私をみて怪訝な表情を向けるから、何でもないですと慌てて取り繕った。
すると突然先生は椅子から立ち上がり、ぎしりと軋ませながらベッドに腰掛けてきた。思わず身構える。


「……せんせ、なんですか」
「ここのが喋りやすいだろ」
「だからって、さすがに、先生、ねえ?」
「何もしねーから別にいいじゃねェか」
「そーいう問題じゃなくないですか、だってこれ誰か別の人間入ってきたら変に思われる」
「クククおまえ面白ェな」
「、わたしは面白くないです、意味わかりません」

ああだめだと思った。
確かに何もする気はなさそーだしされても困るし自分にされるだけの魅力はないけど、この先生はこの状況を楽しんでいる。
私はというと表面の冷静さを保つのに必死で、今にも崩れてしまいそうなのに。だって私はベッドに男の人が座るだけでどきどきしてしまうほどの純情を持ち合わせているのだから。

「先生どけて下さい」
「無理な話だなァ」
「…何でですか」
「ここは俺の保健室で俺のベッドだ。どこに座ろうが自由だろ?」
「正確に言えばこれは学校のものです、高杉先生のものじゃあない」
「クククやっぱ面白いわお前。名前なんだっけか?」
「……みょうじです」
「みょうじねェ」

高杉先生は楽しそうに喉を鳴らし、ようやくベッドから退けてくれた。
かと思ったらこっちに近づいて来、ぐいっと手が伸びてくる。思わず身を堅くし目を閉じれば、シャーッとカーテンの引かれる音が鳴り響き、高杉先生の姿はなくベッドにひとり取り残された。


ああ早くチャイム鳴ってくれ


風船を割られた女/20110317