text | ナノ



「ちょいとそこのお嬢さん」

ふ、と後ろを見たら退が車から手を振っていた。
乗りなよと手で合図され、遠慮なく助手席に乗り込む。

「隊長から帰したって聞いて焦ったよ。送るって言ったでしょ」
「…いや、毎回頼むのもさすがに気が引けてて」
「頼んでるのこっちなんだから、甘えてよ。それとシートベルト」

遠いところからわざわざきてくれてるんだし、と退は車を走らせた。慌ててシートベルトを閉め、助手席に体を落ち着かせる。

「今日はなにしたの?」
「今日も安全教室とか…あと性犯罪についてとか」
「ああ道理で。だからなまえにお鉢が回ったのか」
「なに?前になんかあったの?」
「局長がね…説明の仕方がその、ストレートすぎて、セクハラだって」
「…ああ、なるほど。それで松平様直々のお達しが私のとこにね」
「そーいうこと」
「それにしても、中学生相手だったからね、性教育についての話が一番食いつきが良かった」
「そんな情報求めてないよ」
「だって事実だもん。退だってそうだったでしょ」
「ハイハイわかったからそこにあるコーヒー飲んでいいよ」

背もたれに疲れた体を沈め、有り難くコーヒーを受け取った。ちらっと見るとちゃんと私が好きな種類のコーヒーで、思わず笑みがこぼれる。せっかく貰ったものだしと取っておきたいところだけど、退に変に思われるのも嫌なのでとりあえず後で飲もうとポケットに入れた。




…………、というところまでは確かな記憶があった。
しかし気がついたら車は止まっていて、ぼんやりする頭で周りの景色を見るとよく知った風景が広がってい、一瞬にして目が覚めた。


「え!?ついた!?」
「あ、おはよう。よく寝たね」
「え、寝て……え!?今何時…??」

時計を確認すると、短針は8を指していた。真選組の屯所を出たのは6時前であり、ここまでくるには40分くらいで足りるはずだ。単純に計算しても、ここについてから1時間以上経っていることになる。


「ごめんなさい…!!相当寝ていたようでなんとお詫びしたらよいか…!!」
「気にしないでいーよ、熟睡するくらいだから相当疲れてたんでしょ。真選組がこき使ったせいだし」
「いや、そんなことは、普通に私が」
「それにさ、嬉しかったんだよ」
「??」
「嬉しかったの」

意味が分からなく退の顔をまじまじと見れば、優しそうな表情でふわりと笑った。照れている表情で頬を掻いているが、何に照れているのかさっぱりわからない。
とりあえず、家についたのだからと車から降りてドアを閉め、開いた窓に向かって
疑問を投げかけた。

「えっと、嬉しいとは何が…?」
「なまえが寝てくれたこと」
「??それのどこが、てかむしろ大迷惑じゃ」
「寝たってことはさ、俺の運転に安心してくれたってことでしょ」
「…まあ、退運転上手いからね」
「うん、好きな人に安心してもらえるってのは最高だよ」


一瞬にして凍りつく私をよそに、退はそれじゃあまたねと窓越しにぽんぽんっと頭を撫で、車で帰って行った。


「あ、あいつとんでもない地雷落として行きやがった…!」



そして角砂糖をみっつ/20110315



thanx:確かに恋だった