text | ナノ




※現パロ(土方先生と生徒)




「みょうじ?」

突然名前を呼ばれたから、うわっと叫んで後ろを見ると土方先生がいた。正確にいうと"土方先生らしき人゛だ。気づかないうちに日は落ちて、教室内は相当暗い。


「先生ェ!びっくりしたー!」
「こっちがびっくりだっつーの」
「へへっ」
「勉強してんのか?電気つけろよ、目ェ悪くすんぞ」


パチッパチッと音がしていくつもの電気がいっせいに点いた。暗いとこに慣れていた目は明るさに耐えきれずに一瞬怯んだが、徐々に明るさに慣れて辺りを見回せるくらいになった。
教室の入り口付近に目を向けると、"土方先生らしき人゛はちゃんと土方先生だった。思わずにんまりする自分の顔。名前を呼ばれたたった一言の声で先生だと判断できるなんて、嬉しさ反面ちょっと気恥ずかしい気もする。


先生は真っ直ぐこっちに向ってきて、私の目の前の椅子に座った。


「調子はどうだ?順調か?」
「、まあ…ぼちぼち、ですねえ」
「オイオイ今の時期にぼちぼちってのはなァ…」
「せんせー、受験生にそんな呆れた目を向けないで下さーい。ここはひとつ励ますところじゃないんですかー」
「あ?お前励ましたところでやるか?逆にこき下ろされた方が勉強すんだろ」


よ、よくわかっていらっしゃる…
褒めたら調子に乗ってダメになるだろ、と鼻で笑う先生に反論できない。
しかし、鼻を鳴らす勢いで小馬鹿にしてきた先生に苦笑いすると同時に、自分の性格が言い当てられたことですごく嬉しくなった。むしろ、嬉しい気持ちの方が大きい。
そしてそんなことを言われると私はちょっと強気になる。私だけが特別なんじゃないかって、ちょっぴり舞い上がる。

思わずむふふと笑っていると怪訝な表情をしたから、強気状態な私はパッと思いついたことを口に出した。


「先生、彼女いるんですか?」
「…なんだ?唐突だな」
「ふと思っただけですよー」
「彼女なー…いなくなってからだいぶ経つ」
「え、前はいたんですか?」
「あ?バカにしてんのか、俺だって彼女はできるし案外モテんだぞ」


そんなことはわかりきっています。
私も先生にオトされたうちのひとりです。

「そうだなァ、結婚は難しいっつーことはわかった」
「ええ!?……先生もしや結婚だめになったことある…?」
「まあな。みょうじ、誰にも言うなよ?」

苦笑しながら念押す先生に私は強く頷いた。
というか、誰にも言うなって、イイ言葉だなー


「先生でもそんなことあるんですねー」
「人間生きてりゃ必ず失敗のひとつやふたつできるからな」
「ですね。でも、断った彼女さん、今頃後悔してますよ」
「だといいんだが」
「ぜったい、ぜえーったいそうですって!」

力強く言い切ると、先生は片眉を上げて可笑しそうに笑った。
そしてこちらに手を伸ばしてきたかと思うと、ばちんと指でおでこを弾かれた。


「っったあ…!」
「みょうじ、誰かに言ったらこれの十倍な。特に沖田には喋んじゃねーぞ」
「……沖田先生に喋ったら吊す勢いの目、怖いです」

反論しようとするとぎろりと恐ろしい目を向けられ、私は慌てて了解しましたと敬礼した。
先生はよし、と頷き、椅子から立ち上がってしまった。
もう行ってしまうみたいだ


「じゃ、俺は職員室戻るわ。みょうじもそろそろ帰れよ」
「はーい。先生さよならー」
「ああ、さよなら」

がららと戸が開き閉まるまで、去ってゆく先生をずっと見つめていた。
すると、教室から出るときにすっと顔を上げて、戸が閉まる一瞬こちらを見て微笑んだ先生の顔にどきりとさせられた。


「好き、だなあ」


ぽつりと呟いて顔を机に伏せた。
教室には誰もいないけど、今の自分の顔を隠してしまいたくなった。
とんでもなく幸せな顔をしていると思うけれど、心はとてつもなく、切ない。

先生に告白する気はない。
最初から無理だとわかっている無謀な行動はしない。ましてや先生と生徒、だ。いつも以上に無謀なことだろう。けれど時々どうしても先生に言ってしまいたくなる衝動に駆られるのは、私が勘違いしてしまうような行動を先生が取るからなんだ。

そういうとき私は、いつも胸がぎゅーっと締め付けられる気持ちに耐えながら、絶えず頭に浮かぶ、先生の笑顔とか呆れた顔とか笑い声とか授業中の淡々とした声とか、それから頭をばしんと叩かれた感触とか褒められたときに髪をぐしゃりとされる感触とか、先生のそばに行くとふわりと香る煙草の香りとか、そういうのを思い返しながら声に出して吐き出す。


「先生が、好き」



好きなくせに馬鹿みたい/20101130


thanx:確かに恋だった