text | ナノ



「あら…」
「あ…」


もう日付が変わろうかとする時間帯、ちょっとした任務を終えて公園を突っ切っていると、ベンチに見た顔が座っていた。
真選組の局長、近藤さんである。
いつもなら快くお互い声をかけあえるのだけど、今日は少し歯切れが悪い。
理由として、近藤さんの顔がぼこぼこに腫れ上がっているからだと断定できる。


「…えっと、また例のところに?」
「ああ、まあ…そんなところで」


苦笑して頭を恥ずかしそうに掻く近藤くんを見ると、いつも不思議に思う。
見た目的にも、そんなにストカーする人じゃないような気もするんだけどなあ
真選組の局長って肩書きあるし、世間一般よりだいぶ高収入だろうし、見た目もさほど悪くないし…ゴリラって言われているのを見て少し納得した話は置いといて。
しかし、女の夢の一つである玉の輿を狙える男をぼこぼこに殴るキャバ嬢、一度見てみたいものだ。


「また酷くやられたましねー…ブラックでいいですか」
「ああどうも。…いやー、なまえくんにはいつも変なところ見られるなあ」
「全く。勘弁してくださいよー私はそのおかげでほら、いつも持ち歩いてる」


ほいっと救急セットを近藤さんに投げて、隣に腰かけた。
すみませんねと苦笑しながら手当てし始めたのを見てから、缶コーヒーの蓋をあける。
徐々に冬に近づいている季節、温かいものが有り難い。
甘いコーヒーを啜っていると処置が終わったらしく、感謝の言葉と共にすっとポーチが返ってきた。


「なまえ君にはいつも助けられてるなー感謝してもしきれないよ」
「いえいえ、こちらも真選組の仕事っぷりには感謝しきれませんから。もちつもたれつ、ですよ」
「またまたー俺らの方が助けられてるってーのに、なまえ君はほんっと謙虚だなあ」


近藤さんってなんとも良い人だ。素直で憎まれ口を叩く事もなく、裏が全く感じられない。そもそも裏が無いのだろう。
この人の為に、っていう真選組の気持ち、わからなくもないかも。


「ところで近藤さん」
「何だい?」
「次行くとき、その、少し言いにくいんですが…」
「ん、仕事だね。いいよ、引き受ける」
「…仕事の内容聞かないんですか」
「聞いたところでとっつぁんの依頼だろ?俺たちに断る権利あると思う?むしろ断ったら殺されかねねーんだ」


がははと豪快に笑いながらどんと構える近藤さん。
やはり良い人で、良い人すぎるところが玉にきずだと総悟くんも言ってたっけ。
そんなにあっさり了承されると、仕事を押し付けてる私が罪悪感持っちゃうんだけど。
だから私は必要以上に真選組に肩入れしてしまうのかもしれない。
秘密ですよ、と前置きしてから近藤さんに向き直る。


「まだ確実ではないんですがね、たぶんまた栗子ちゃんですよ」
「なに!?栗子ちゃんに新しい男か!!それは気合入れてかからんと…」
「そんな気合入れんでも…というか栗子ちゃんの心配より自分のでは?例のキャバ嬢は結局のところどうなんですか、落とせそうなんですか」
「ま、まあそこそこだな…うん。たぶんもうあと一歩ってところじゃないかな!!」
「へえーけっこうな感じで…あ、そうだ、今度一緒に行ってもいいですか?そこに」
「え?キャバクラに?なまえ君が行っても面白くないと思うけど」
「近藤さんたちと飲みたいんですよ」
「でも飲むならもっとちゃんとしたところで…」
「そこがいいんです!男性陣ばかり楽しそうでずるいですもの。それに例のキャバ嬢もみたいし」


最後の言葉は小声で付け加え、え?と聞き返す近藤さんをはぐらかした。
一番の本音はそこなのだけれど、真選組の面々とお酒を飲みたいのも本当。
まあそこまで言うんならと了承してくれた近藤さんに礼をいい、ベンチを立った。


「では、お先に失礼します」
「送って行こうか?どーせ俺ももう帰るだけだし女の子一人は物騒だし」
「いえ、大丈夫ですよ。私も一介の警察官ですし」
「ははっ!そうか、甘く見ちゃいけんなあ!じゃ、おやすみ」


ひらひら手を振り満面の笑みで「ありがとー」という近藤さんに軽く会釈し、照れくさいながらも同じように手を振った。
最初は設立さえ不審に思っていた真選組という部署に。どれだけ助けられているのだろう。


そこは温かな/20101020