text | ナノ



「お邪魔しまー…げ」
「げ、とか言うもんじゃァありませんぜ。仮にも女なんですから」
「仮にもって…そもそも何で君がここにいるの」
「見ての通りでさァ」


ああさぼりねと頷けば、大当たりと表情ひとつ変えずに頷くこの隊長さん。
思わず笑ってしまった。
こんなにも潔くさぼりを肯定する人は本部にはいない。というかさぼる人も滅多にいない。
この際松平長官のことは考えないことにする。


「さぼっても関係ないからいいけど…何でここなの」
「灯台もと暗し戦法でさァ。まさか自室で寝てられるとは考えが及ばねーだろィ」
「なるほどね。今度長官室でやってみようかな」
「とっつぁんには効きませんぜ。あの人ァもともと仕事せんで自室にいるし」
「ああ確かに。キャバクラ行ってるときに使うか」はははと笑うと、寝転がっていた総悟くんがむっくりと起き上がった。
無表情な顔が訝しげな表情へと変わり、嫌だというオーラを全面的に押しだしてきた。



「なまえさん、一体何しに来たんですかね?また妙な案件引き連れてきたんなら…」
「ああ大丈夫。今日は用をもってきてないから。ただここに来たかっただけだよ」
「それならいーんですがねェ。なんせなまえさんが持ってくる話はいつも面倒事すぎまさァ。ま、栗子ちゃんの奴なら大歓迎ですぜ?楽しくて仕方ねーんで」
「…栗子ちゃんのも面倒じゃん。というか、なぜだか申し訳ない気分になるけど、私が持ってくる話は長官からの絶対命令だからね?」


そもそも君たちが問題起こしてくれるおかげで私の立場も危うくなりかけたんだから、私ではなくて君達真選組の方に申し訳なく思ってほしいのだけど。
と、出かかった言葉を飲み込んだ。
このことは副長さんに話そうと思ってきたのだし、ましてや総悟くんに話したらもっと厄介事を引き起こしかねない。
ただ単に面白いという理由だけで、そういうことをいとも簡単にできてしまう人だと、知りたくも無かったけれども私は既に認識している。
あはははと誤魔化すように笑って、飲み込んだ言葉をかき消した。


「ところで土方くんはどこにいるの?」
「さあ?市中にでも出回ってんじゃないんですかィ?」
「そうかー…長くかかるんなら無理かな。そろそろ時間」
「なんでィ。やっぱり土方さんに会いに来たんじゃねーですか」
「別にそういうわけでもないけど…まあ、それも含まれてるかなぁ」
「ふーん」


にやりと笑った総悟くんに顔をしかめて見せた。
総悟くんの想像と、私の気持ちは少し違うと思う。
むしろ総悟くんが私をみて(確実に)楽しんでいる気持ちに近いのだと思う。
私も真選組に来るたびに何事かを楽しませてもらっているし…
でも確かに、総悟くんの言う気持ちが無いとは言えないところが肝心なのだろう。


「俺ァ別にあんたが土方さんに嫁いだって文句は言いませんぜ?むしろ」
「いじめる対象が増えて嬉しいでさァ、とか言わないでよ?」
「あり、御名答。よくぞおわかりで」
「…私仮にも本部の人間で真選組を潰せるだけの立場あるんだけど」
「よく言いまさァ。なんだかんだ裏で画策してるの知ってますぜ」


しれっとした顔で言い放つ総悟くん。
私は迷わず鋭い睨みを利かせたのだけれど、全く効いていないようだ。
一番問題の多い当の本人が判っているのなら、問題起こさないように努力してよ!という苛立ちが湧き上がる。



「君は本当に質の悪い人だよね…此処にくるたびそう思うよ」
「俺はなまえさんがくるたび楽しくて仕方ありやせんよ?」


眉を上げて総悟くんを見ると、同じ表情でぴたりと目が合った。
同時に、二人で声に出して笑った。

此処に来ると何もかも大丈夫な気がしてしまうから不思議だ。
例え今までにやってきたどんなに汚い仕事であっても、神様は許してくれるだろうと、そこまで思わせてしまう真選組っていったい…
心の中で思いっきり苦笑して、私はもう一度畳に寝転がり目線を頭の上に投げだすと、キョトンとした顔の退くんと目が合った。

「あれ、沖田隊長…になまえさんまで。どうして此処に…まあ、そんなことはどうでもいーや。隊長、副長がすごい剣幕で探してますけど」

げ、と忍以上の素早さで副長室を飛び出す総悟くんに釣られて、私も部屋を飛び出して裏口から屯所を抜け出した。

「…あれ、私何で逃げ出したんだろう」




空気的日常/20100810

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