text | ナノ




とある村の男の話。
村人全員から邪険にされていた男は、実は絶えたと思われていた王家の末裔で、紆余曲折を経て王となった際に村人全員が「この偉大な王様はあの男なのか!」と気づき愕然とする。寛大な男は村人を咎めずに優しく謝罪を受け止める。
また、魔女の女の子の話。
ある理由から空を飛べなくなってしまった女の子が、友人のピンチを知ったとき、助けようと必死に思い、戻る気配もなかった魔力が戻り空を飛べるようになったこと。

物語において、思わずほくそ笑んでしまったり、「絶対こうなると思ってたよ、読めてた」と楽しくなってしまう展開が物語中にはあるはずだ。
よく、「ベタな話だ」「読める展開なんてつまらない」と言われるものだが、読める展開というのは素晴らしいものではないのだろうか。
「予想通りの展開」とはつまり「期待通りの展開」と言い換えられるだろう。要するに読者が1番読みたかった展開、というわけだ。待ってました!という話を書けるなんて素敵なことだと思うので私は―――――…


ぎゅっと抱きしめられて耳元で愛を囁かれたいです、副長」


思わず傍に置いていた刀の柄でみょうじを殴った。
そんなことだろうと思っていた俺は、最後まで言わせる前に殴るつもりだったのだが、終わりの見えない話に引きずられてついつい最後まで聞いてしまった。
頭をさすりながら副長〜〜〜と呟くみょうじに顔を向けて息をすーっと吸い込んだ。


「てんっめーは馬鹿かァァァァ!んなこと頼むために見廻りさぼって俺のとこ来たのか!つーか無駄に前置きなげーわ!」
「だってそれを読者の皆様が望んでいるんですもの」
「読者ゆーな」


何言いやがるこいつは…
はあっと大きなため息が口をついて出た。


「普通ベタっつー話は恋愛の話を用いるんじゃねーのか」
「事実は小説よりも奇なりですよ。恋愛小説でベタな話ほど、なかなかないものです。ですから私たちで実践してみようと敢えて恋愛を用いなかった私の気持ちを察してください」
「知らねーよ。意味わかんね」


涼しい顔で弁を振るうみょうじには怒鳴り甲斐が全くない。
むしろこっちの体力を削るだけの無駄骨だ。


「でも副長ー。それをするだけで2859人という人を救えるのですよ」
「……その投票男もいるぞ。つーかお前みたいな奴ばかりじゃねーとも思うがな」
「副長なんか自意識過剰」
「うるせー!」「とりあえず今すぐにでも救える人が今ここに…!」
「両手広げてこっちくるなァァァ!!!」
みょうじの頭をがしっと押さえて尚且つ吸っていた煙草の煙を顔めがけて吐き出してやった。
ごほごほと咳き込みながらもぐいぐいと前に進んでくるから、ひょいっと頭を押さえていた手を退けると、途端にバランスを崩して畳に傾れ込んだ。これ以上動かれてたまるかと思い、うつ伏せで伸びているみょうじの背中の上に腰かけた。


「いいからお前早く見廻り戻れ。これ以上俺の仕事を増やすな」
「ならば愛の囁きを…あ、後ろから抱きつくのでも可です。というか後ろからの方が希望です」
「寝言は寝て言いやがれ。おめーの仕事増やすぞ」
「せっかく譲歩しているのに副長ってば鬼…まあ仕方ないですね。お姫様抱っこで我慢します」
「ああ、そんな傲慢な譲歩は初めてだ」


ぐすっぐすっと明らかに嘘泣きをし続けるみょうじに俺は呆れるばかりだ。
なんというか…一生懸命、なのか?
毎日毎日飽きずによくやれるもんだ。
あまりにも直球でくるためか、すぐにあしらえばいいものを、最後まで聞いてしまったり…不憫に思ってフォローしてしまうのが最近の悩みだ。
俺の下で足をばたつかせて「副長重いー」だの「乗ってるから仕事に戻れませんー」だの言い始めたもんだからもう一度刀でばしんと叩き起こした。


「早く行って来い。今攘夷志士が騒動起こして民間人に被害が及べばお前の責任だぞ、みょうじ」
「ええ!?そんなの理不尽じゃないですか!他の隊だって見廻りで行ってるのに!」
「他の隊のメンバーは仕事を途中で放ってこねーよ」
「沖田隊長はさっき団子屋でお茶してました」
「…あいつは勘定するな。つーかまたさぼってやがんのか…!」


またため息のネタが増えた。
今日こそ帰ってきたら言い聞かせてやる。


「とにかくお前の責任だ。それが嫌なら早く行け」
「せめて頭を撫でてくれれば…」


するかァァァ!と怒鳴り、部屋からみょうじを放りだした。


「副長の馬鹿。私がいなくなって寂しくなっても知りませんよ?悲しくなっても知りませんよ?辛くなっても…」


言葉を呟きながら何度も何度も振り返るみょうじ。
まったく、この女は、なんでこんなにも…あーくそっ

「あー!うるせえ、仕事さぼった罰として今日の夜は書類整理やってもらうぞ。何度も警告したのに戻らなかったお前が悪いんだからな」


文句言うなよ、と釘を刺そうとみょうじを見て俺は再び頭を抱えたくなった。
いや、あまりにも予想通りでむしろ笑いたくなった。笑っていたかもしれない。


「…おいみょうじ?罰だぞ?書類山ほどあんだぞ?徹夜さすんだぞ?」
「ええ、ええ、判ってますとも。罰ですとも!別に副長の部屋で2人きりで嬉しいとか運が良ければ寝てしまった副長の寝顔を頂けるとか思ってませんとも!」
「…ああ、あまりにも潔くて俺は今感動してるよ」


目をキラキラさせて、ではまた後でーとスキップしていくみょうじの後ろ姿は、どうも俺の笑いを誘ってくるから困ったもんだ。



20100625/ともすればの事情


呆れる土方さんを見たかっただけでした
指輪物語と魔女の宅急便から話をお借りしました。