真樹緒が城を出て七日。
その真樹緒から文が届いた。


「本当に人の気も知らないで。」


カァ、と窓辺で鳴く鴉に苦笑って「ここまでご苦労様」と一言。
さぁどうしてやろうかとその文を開く。
小さな可愛らしい字で綴られたそれは梵の近況や皆の無事を伝えるものだった。


『政宗様の怪我が治ったよ、こじゅさん元気やで、こーちゃんも取り戻して、俺も元気です。』


そしてそれから。


『ごめんなさい。』


「ふうん?」


勝手にお城を出てごめんなさい。
おシゲちゃんとの約束を破ってごめんなさい。
心配かけてごめんなさい。
紙の端っこまでごめんなさいが沢山。


「まったく…」


そう思うなら何で初めっからじっとしてないかなぁ。
思わず口元が緩む。


ねぇ、真樹緒。
俺がどれだけ心配したと思うの。
風魔がいないというのに城を出て。
もしかして松永という男に連れ去られたんじゃないかとまで思ったんだから。


まさか甲斐の忍が干渉してたとはねぇ。
まぁ、そこらへんは後で本人にじっくり聞かせてもらうけどさ。


「さて。」


真樹緒は無事に梵と甲斐にいる。
こちらに戻ってくるのは恐らく信玄公との盟約が済んでから。
でも足が無いよね。
そりゃぁきっとまた梵の馬に乗って帰ってくるんだろうけど。


「…鬼庭殿。」


北条平定後、その後始末を任されていた鬼庭殿はその任を終え二日前に奥州に戻ってきた。
生憎、こちらも慌しくあったから彼に真樹緒との面識は勿論ないんだけれど。
傍で梵へ報告する書類を作っている鬼庭殿の方を向き、一つ頼みたいことがあるんだけどと笑ってみる。
小十郎よろしく中々の強面を持つ三傑の一人は眉間に皴を寄せながらも振り返ってくれた。


「何でしょう。」
「甲斐へ行ってくれないかなぁ?」
「は?」


いや、ねぇ。
ちょっと迎えに行って欲しい子がいるんだよ。
あ、帰ってくるのは梵達と一緒でいいんだけどさ。
それともちろん鬼庭殿の暇が許せばだけど。


どうだろう。


「…成実殿が行かれたらよろしいのでは。」


その迎えに行って欲しい子というのは殿が寵愛されてる子供の事でしょう?
聞けば成実殿とも心安い間柄とか。
面識が僅かも無い私が行くよりは。

お見通しの鬼庭殿はそう言ってまた書類に目を落とす。


「んー…」


まぁ、俺が行ってもいいんだけどさ。
ちょっとねー。
ほら、真樹緒はきっと俺が怒ってると思ってるじゃない。
いや怒ってるんだけど。


けど俺がいったら絶対に甘やかしてしまうから。
だって現に今だって、無事で良かったと真樹緒の頭を撫で繰り回したくてしょうがないんだよ。
そしたら真樹緒は「おシゲちゃーん!!」って俺に飛びついてきてくれるんだろうけど、それじゃぁ。


ちょっと癪だよね。


俺、こんなに心配したのに。
小十郎並に腹を痛めたよ、俺は。



「…中々、歪んでますね。」
「いやいや愛でしょう。」


って事でお願いしますよ鬼庭殿。
その書類、そろそろ終わるよね?
あ、ちゃんと馬は用意させているから。


へらりと笑ったら大きな溜め息が聞こえた。


「鬼庭殿。」


そんな溜め息にも負けずにこにこと笑いながら見ていたらようやく。


「…全く…」


重い腰を上げた鬼庭殿に一礼を。
よろしくお願いしますともう一度。

鬼庭殿も真樹緒に会えばきっと分かる。
あの子がどれ程自分達の心を捉えて離さないかがきっと。


だからよろしく。
真樹緒をお願いします。




あ、俺の事聞かれたらすっごく怒ってたって言っといてね。

…やはり歪んでおられる。


人聞きの悪い。


「いえいえ、愛ですよ。」


どうしようもなく深い。
あの子が可愛いが故の。


これは愛なのですよ。


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拝啓おシゲちゃんでした!
この後鬼庭さんが甲斐へ迎えに来てくれます(笑)
おシゲちゃんがすっごく怒ってたと聞かされてキネマ主は打ちひしがれたらいいかと思います。

けれどそれはもう少し後で。
次回は同盟が決まったので小さな宴でも。

いえ、アンケで「キネマ主からのちゅーが見たいです」と頂いたので酔っ払わせてみようかなぁと思いまして(笑)

  

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