「…おかしな子供だ…」
「ぬ?」


ああ、全く。
理解し難い子供だ。


何故憎まない。
何故恨まない。
何故、笑う。
謝罪を求める位ならばいっそ一思いにとどめを刺せばいい。


「…生温いとは思わないかね。」
「ぬ?」


憎み、恨み、仇を取ればいい。
綺麗事など所詮偽善。
反吐が出そうだ。


「んー?俺、難しい事はよう分からんけど。」


小さい声でそう切り出した子供の手は己のそれをしっかりと掴んでいる。
震えもせず、それが当然なように。


「俺、ちゃんと怒ってるんよ?」


やから謝ってって言うてるんやん。


俺が松永さんにして欲しいのはそれだけなん。
政宗様にね、「ごめん」って言うて欲しいだけなん。
俺は別に何もされてへんからええねんけどやぁ。
政宗様怪我してるんやで。
爆発に巻き込まれて。
それ、ちゃんと謝って。
あ、こーちゃん連れて行った分はこじゅさんがかたきうってくれたからかんべんしてあげる。


子供が笑う。
屈託無く笑う。
恨みなど、憎みなど、何の事もないのだと笑う。


「卿は…おかしな子供だ。」
「?そお?」


あ、俺な。
真樹緒。
真樹緒ってゆうんよろしくね。
松永さんから見たら子供やろうけど、もう16歳なんやで。
よかったら名前で呼んで。


「…はやり、理解し難いな…」
「んー…?」


そりゃあねえ
自分以外の人の事、はじめっから全部分かる人なんかおらんと思うん。
やから皆お話したりして、友達になったりして、その人の事分かっていくんやで。
楽しいと思わん?
全然全く知らんかった人の事を分っていくんって。
自分から知りたいなって思うこともとっても大事やと思うし。

はじめっから分ってたら面白くないん。


「わかる?」
「ほう…」


松永さん、俺の事分からんのやったら俺と友達になろう。
俺の事もっと知りたいって思うんやったらやっぱり友達になろう。
友達になったら俺の色んな事教えてあげるよ。
そうやねえ、たとえば好きな食べ物とか。
好きな食べ物がきたら後は嫌いな食べ物とか。
年齢はゆうたから、残ってるのは身長とか体重とか?
あ、それやったら松永さんの事も教えてね。


「…ふ、」
「んん?」


ああ。
こんな風に笑ったのはいつぶりだろうか。
腹の底から競りあがる笑いを噛み締めたのはいつぶりだろうか。


毒気を抜かれてしまったよ。


「真樹緒と言ったかね。」
「はい?」
「手を離してくれないか。」
「……ぬう、」


そんな顔をせずとも、もう火薬を使ったりはしない。
安心したまえ。
私は無駄が嫌いでね。
言えばしっかりと繋がれていた手が緩んだ。
躊躇いがちに解かれた手は離れ、じぃと大きな目がその代わりと云わんばかりに睨んでいた。


「伊達政宗の所に行くのだろう。」
「!!」
「どうやら私は彼に謝罪をしなければいけないようなのでね。」


卿の望みを叶えようじゃないか。
謝罪は自省ではない。
まして本意でもない。


だが、面白い。


「くく…」


瓦礫の中を立ち上がれば竜の右目と目が合った。
卿は私に止めを刺すのだと思っていたのだが。
傍観とはらしくないのではないかね。


「もう、諦めてるんでな。」
「ほう。」


細い目が追うのは真樹緒という子供。
卿は本当に面白い。


思わず、喉が鳴るのを抑えられなかった。


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松永さんも懐柔されてみました。
やっとこ2章終わりの目処が見えてきました。
間章では奥州で待ち構えるおシゲちゃんとキネマ主の攻防(笑)
基本、キネマ主がおシゲちゃんのご機嫌を取るのだと思うのですが

  

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